番外編:氷の騎士は独占欲に溺れてとろける(ヴィクター視点)

 エリアスと出会い、初めてあの黄金色のポーションを飲んだあの日から、俺の世界は色づき始めた。凍てついていた心に、陽だまりのような温もりが灯った。

 最初はただ、呪いを解くための興味だったはずだ。彼の作るポーションにしか、価値はないと思っていた。

 しかし、お前は違った。

 俺が村を訪れるたびに、お前は少し困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。お前の作る素朴な食事は、どんな宮廷料理よりも「美味い」と感じた。薬草について熱心に語るお前の横顔は、どんな宝石よりも輝いて見えた。時折見せる無防備な笑顔を見るたびに、胸の奥が締め付けられるような、甘い痛みを感じた。

 俺の心は、少しずつ、確実にお前に侵食されていった。

 村の男がお前と親しげに話しているだけで、胸の奥が黒い霧で満たされるようにざわついた。お前の肩に気安く触れたあの手を、切り落としてやりたいとさえ思った。この不快な感情が「嫉妬」だと知ったのは、ずいぶん後になってからだ。

 お前が俺のために調合してくれるポーションの一滴一滴が、凍てついた心を溶かしていく。それは、呪いを和らげるだけではなかった。お前という存在を、もっと深く、もっと強く渇望させる、甘い毒のようでもあった。

 ポーションの効果が切れるたびに、俺は無機質な世界に引き戻される。そのたびに、お前の温もりを思い出しては、狂おしいほどの渇望に襲われた。

 ああ、早く、この手で彼に触れたい。

 あの柔らかな髪をなで、滑らかな頬に口づけ、か細い身体をこの腕の中に閉じ込めてしまいたい。

 彼の全てを、俺だけのものにしたい。

 他の誰にも見せたくない。他の誰の声も、聞かせたくない。

 この感情が、呪いの副作用なのか、それとも、俺自身の本心なのか。感情を知らない俺には、分からなかった。ただ、お前を手に入れられないのなら、この世界に意味などない。

 そう思った時、俺は初めて、自分の意思で「欲しい」と願ったのだ。

 エリアス。俺だけの、愛しい錬金術師。

 お前が俺の呪いを解いてくれた今、俺はもう迷わない。このあふれるほどの愛で、お前を蕩かし、どこにも行けないように、この腕で縛り付けてやろう。

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