第19話:対決、そして呪いを砕く光

 仲間たちの手引きによって、ヴィクターと部下たちは王城の厳重な警備網を潜り抜け、ついにエリアスが囚われている研究塔への突入に成功した。

 塔の最上階、エリアスが監禁されている研究室の扉を蹴破ると、そこには待ち構えていた宰相と、彼の護衛たちが立っていた。そして、その手には、喉元にナイフを突きつけられたエリアスの姿があった。

「……来たか、氷の騎士。いや、今やただの反逆者か」

 宰相は、歪んだ笑みでヴィクターを挑発する。

 エリアスは、助けに来てくれたヴィクターの姿を見て、安堵と申し訳なさで胸が張り裂けそうだった。

「ヴィクター、来てはだめだ! これは罠だ!」

「黙れ!」

 宰相はエリアスの喉元のナイフに力を込める。絶体絶命の状況。ヴィクターは怒りに身を任せて斬りかかりたい衝動を、必死に抑えていた。

 その、誰もが動けない膠着状態を破ったのは、エリアス自身だった。

 彼はこの瞬間のために、ずっと準備を続けてきた。隠し持っていた、小さな小瓶。その中に入っているのは、彼がこの場所で作り上げた、最高の傑作だった。

 エリアスは一瞬の隙をつき、そのポーションを一気に飲み干した。

 それは、彼がヴィクターに対して抱く、全ての感情を込めて錬成したものだった。

 彼と出会えた「喜び」。

 彼を想う「愛しさ」。

 彼が必ず助けに来てくれるという、絶対的な「信頼」。

 そして、彼の未来が光に満ちたものであってほしいと願う、純粋な「愛」。

 ポーションを飲み干したエリアスの身体から、まばゆいほどの温かい光があふれ出した。その光は、まるで意思を持つかのようにヴィクターへと伸び、彼の全身を優しく包み込む。

 その光に触れた瞬間、ヴィクターの身体の奥深く、魂にまで絡みついていた呪いの鎖に、ピシリ、と亀裂が入った。

『愛を知ることも、愛されることもなく、永遠の孤独の中で果てる呪い』

 エリアスの、純粋で揺るぎない「愛」と「信頼」の光は、その呪いの根幹を成す「孤独」という概念そのものを否定した。彼は、もはや孤独ではない。彼を愛し、彼を信じる者が、ここにいる。

 メキメキと嫌な音を立てて、長年ヴィクターを縛り付けてきた呪いの鎖が、いともたやすく打ち砕かれていった。

「な、なんだこれは!?」

 常軌を逸した現象に、宰相が動揺する。その一瞬の隙を、ヴィクターが見逃すはずがなかった。

 呪いが解けていく中で、彼の身体能力は限界を超えて解放される。

 ヴィクターは、閃光のような速さで宰相との距離を詰めると、エリアスを傷つけることなく、その腕から彼を奪い返した。そして、その勢いのまま宰相を打ちのめし、戦闘能力を奪う。

 光が収まった時、ヴィクターの腕の中には、愛しい錬金術師がいた。

 そして、ヴィクターの世界は、今までとは全く違うものに変わっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る