第18話:決死の救出作戦

 セドナ村に戻ったヴィクターがエリアスの不在を知った時、彼の怒りはまさに頂点に達した。村人から話を聞き、それが宰相の仕組んだ卑劣な罠であることを悟ると、彼の全身から放たれる殺気は、周囲の空気さえも凍てつかせた。

「……宰相め、万死に値する」

 ヴィクターは即座に王都へ引き返し、国王に謁見を求めた。しかし、宰相は巧みに情報を操作し、エリアスが自らの意思で国家に協力しているかのように偽装していた。国王はヴィクターの訴えを聞き入れず、静観を命じる。

 だが、ヴィクターが王命ごときで引き下がるはずがなかった。愛するエリアスが、今この瞬間も、あの男の元で苦しんでいる。そう思うだけで、はらわたが煮えくり返るようだった。

「王命など、知ったことか」

 ヴィクターは、王の命令を公然と無視した。彼は騎士団長としての地位を一時的に返上し、腹心である信頼できる部下だけを数名選び出した。

「これより俺は、王命に背く。それでも、俺についてきてくれる者はいるか」

 ヴィクターの問いに、部下たちは迷わず剣を捧げた。彼らは、感情を失っていた頃のヴィクターを知っている。そして、エリアスと出会ってからの彼が、どれだけ人間らしい表情を見せるようになったかも知っていた。彼らにとって、ヴィクターは絶対の忠誠を誓う主君だった。

 決死の救出作戦が、静かに始まった。

 しかし、彼らだけで王城の厳重な警備を突破するのは非常に難しい。その時、ヴィクターの元に、思いがけない協力者たちが現れた。

 一人は、セドナ村の村長だった。彼はエリアスに恩義を感じる村の若者たちと共に、危険を顧みず王都にやってきた。彼らは裏道や下水道など王都の地理に詳しく、警備の薄い侵入経路の情報をもたらした。

 もう一人は、エリアスの元宮廷の同僚だった。彼はエリアスが追放された後も、彼の才能を惜しんでいた数少ない人物だった。宰相のやり方に疑問を抱いていた彼は、密かにヴィクターに接触し、エリアスが幽閉されている研究塔の内部構造や、警備の交代時間といった貴重な内部情報を流してくれた。

 錬金術師を救うため、騎士が、村人が、そして元同僚が、それぞれの身分を越えて手を取り合った。小さな絆がつながり、やがて巨大な権力に立ち向かうための、大きな力となっていく。

 ヴィクターは、仲間たちから寄せられた情報を元に、完璧な潜入計画を練り上げた。

「……エリアス、今、助けに行く。もう少しだけ、耐えてくれ」

 闇に紛れ、ヴィクターと彼の精鋭たちは、王都の心臓部へと静かに進軍を開始した。その瞳には、愛する者を取り戻すという、揺るぎない決意の光が宿っていた。

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