第20話:感情の奔流と愛の誓い

 呪いの鎖が砕け散った瞬間、ヴィクターの魂に、失われていた全ての感情が、まるで決壊したダムの水のように、濁流となって流れ込んできた。

 愛、喜び、悲しみ、怒り、驚き、恐怖――。

 色を失っていた世界に、鮮やかな色彩が戻ってくる。音を失っていた世界に、美しい音楽が流れ始める。

 生まれて初めて経験する、あまりに強烈な感情の奔流に、ヴィクターは一瞬、意識が飛びそうになった。だが、彼はその荒れ狂う感情の嵐の中で、はっきりと一つの感情を自覚する。

 腕の中にいる、この温かい存在。エリアスに向けられる、このどうしようもなく温かくて、切なくて、胸を焦がすような、愛おしいという感情の正体を。

「……エリアス」

 ヴィクターは、腕の中のエリアスをそっと見下ろした。そのサファイアの瞳は、もはや凍てついてはいなかった。そこには、深い愛情と熱い情熱の炎が、鮮やかに燃え盛っていた。

 感情を取り戻した騎士は、もはや無敵だった。

 ヴィクターはエリアスを安全な場所へと移すと、呆然と立ち尽くす宰相へと向き直った。

「貴様だけは、許さない」

 その声には、エリアスに向けられたものとは全く違う、冷徹な怒りが満ちていた。ヴィクターは、もはや剣を抜くまでもなかった。圧倒的な威圧感と的確な打撃だけで、宰相とその護衛たちを完膚なきまでに打ちのめした。

 やがて、ヴィクターの部下たちが駆けつけ、宰相たちを拘束していく。全てが終わったのだ。

 ヴィクターは、愛する人の元へと歩み寄った。そして、先ほどとは比べ物にならないほどの強い想いを込めて、彼を抱きしめる。

「エリアス、愛している!」

 それは、彼の魂からの叫びだった。呪いから解放され、初めて自らの意思で紡いだ、純粋な愛の言葉。

「俺の世界に、色と、光をくれてありがとう。お前だけが、俺の全てだ」

 その言葉に、エリアスの瞳からも涙があふれた。

「ヴィクター……! 僕も、僕もあなたを愛しています……!」

 二人は、互いの存在を確かめるように、強く、強く抱きしめ合った。もはや、二人を隔てるものも、縛るものも何もない。

 感情を取り戻した騎士と、奇跡を起こした錬金術師は、燃え盛るような激しいキスを交わした。それは、永遠の愛を誓う、情熱的なキスだった。

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