第17話:絶望を錬成する抵抗
王都の地下深く、冷たく湿った空気が漂う牢獄に、エリアスは幽閉された。光も届かないその場所は、セドナ村の陽だまりとはあまりにかけ離れていた。
しばらくして牢の扉が開き、あの宰相が姿を現した。彼は歪んだ笑みを浮かべ、エリアスを見下ろす。
「ようやくお目覚めかな、エリアス君。これからは国のために、その類いまれな才能を発揮してもらうぞ」
宰相はエリアスを牢から出すと、城の一角に用意された、厳重に管理された研究室へと連れて行った。そこには最新の錬金器具が揃っていたが、窓には鉄格子がはめられ、出入り口は屈強な兵士が固めている。もはや、牢獄と変わらなかった。
そこでエリアスが強要されたのは、兵士の士気を強制的に高め、痛みや恐怖を感じなくさせる「狂乱」のポーションを作ることだった。それは人の心を破壊し、ただ戦うだけの機械に変えてしまう、悪魔の飲み薬だ。
「このような非人道的なこと、できるわけがありません!」
エリアスが断固として拒否すると、宰相は冷たく笑った。
「そうかね? もし拒否すれば、お前が大切にしているあの辺境の村がどうなるか……分かっているだろうな?」
村人たちの命を盾に取られ、エリアスは言葉を失った。セドナ村の皆の笑顔が、脳裏に浮かんで消える。彼らを犠牲にすることなど、できるはずがなかった。
絶望的な状況に追い込まれ、エリアスは選択の余地なく、協力するふりをすることにした。しかし、彼は決して屈したわけではなかった。
(このまま、言いなりになるものか……)
エリアスの瞳の奥には、静かだが確かな抵抗の炎が灯っていた。彼は表向きは「狂乱」のポーションを研究するふりをしながら、密かに、全く別のポーションを精製し始めた。
それは、彼がセドナ村で培ってきた、感情を操る錬金術の応用だった。ただし、込める感情は、今までとは真逆のもの。
宰相や兵士たちの目を盗み、彼は自分の内に渦巻く全ての負の感情を、ポーションへと注ぎ込んでいく。
王都にさらわれた「絶望」。
ヴィクターと引き裂かれた「悲哀」。
自由を奪われた「無気力」。
宰相への静かな「憎悪」。
完成したのは、どす黒く、見るからに不吉な色をした液体だった。これを宰相に差し出す「狂乱」のポーションの試作品に、ほんのわずかずつ混ぜ込んでいく。
効果はすぐには現れないだろう。だが、じわじわと、確実に、それを服用した者の精神を内側からむしばんでいくはずだ。
これは、エリアスにとっての静かな反撃だった。ヴィクターが必ず助けに来てくれると信じて。その時が来るまで、自分にできる最大限の抵抗を続ける。
エリアスは、暗い研究室の中で、ただ一人、絶望を錬成しながら反撃の機会を静かにうかがっていた。
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