第16話:仕組まれた罠、再び
エリアスとヴィクターが互いの想いを確かめ合った後、セドナ村には束の間の平和が訪れた。ヴィクターはエリアスの側にいる時間を少しでも長くするため、騎士団の業務を調整し、以前にも増して村に滞在するようになった。
しかし、王都の宰相は、一度手に入れ損ねた「駒」を諦めるほど甘い男ではなかった。
刺客部隊の失敗報告に、宰相は激怒した。
「氷の騎士め、小賢しい真似を……!」
力ずくでの強奪が無理ならば、今度はもっと巧妙な罠を仕掛けるまで。宰相は、エリアスの人の善さ、優しさにつけ込む卑劣な計画を練り上げた。
彼は、隣国の動向を探るためヴィクターの騎士団に潜り込ませていた密偵からの報告により、ヴィクターが王城での重要な軍事会議に出席するため、どうしても数日間セドナ村を離れなければならない日を再び狙った。そして、今度はエリアス自身が、自らの意思で村の外へ出るように仕向けたのだ。
ヴィクターが王都へ向かった翌日。セドナ村に、一人の旅人が慌てた様子で駆け込んできた。
「大変だ! 隣村で、子供たちが原因不明の重い病にかかっている! どうか、奇跡の錬金術師様の力を貸してはいただけないだろうか!」
その知らせに、エリアスはすぐさま立ち上がった。特に、エリアスが懇意にしている少女リリーの友達もその病にかかっていると聞き、彼はいてもたってもいられなくなった。
「その病に効く薬草は、この村の近くにはない……。村の外れの谷にしか自生していない、珍しい薬草が必要なんだ」
旅人――宰相が送り込んだ密偵――の言葉に、エリアスは何の疑いも抱かなかった。村人たちは危険だと止めたが、子供たちの命がかかっていると聞けば、黙ってはいられない。
「大丈夫、すぐに戻るから」
エリアスはそう言い残し、薬草を採るための籠を背負い、一人で村の外へと向かった。全ては、彼の優しさを利用した、巧妙に仕組まれた罠だった。
彼が目的の谷にたどり着き、目当ての薬草(もちろん、それも偽の情報だ)を探していると、突如、周囲の茂みから無数の兵士たちが姿を現した。その数は、前回の刺客たちとは比べ物にならない大規模な部隊だった。
「……っ! 罠か!」
エリアスが気づいた時には、すでに遅かった。四方を完全に包囲され、逃げ場はない。屈強な兵士たちを前に、錬金術師である彼には、なすすべもなかった。
抵抗もむなしく、エリアスは再び捕らえられた。今度は厳重に拘束され、そのまま黒塗りの馬車に乗せられる。
馬車が王都へと向かう道中、エリアスは絶望的な気持ちで唇を噛んだ。ヴィクターの顔が脳裏に浮かぶ。せっかく心が通じ合ったばかりなのに、なぜ、また引き裂かれなければならないのか。
宰相の卑劣な罠によって、エリアスは再び光の世界から引きずり出され、王都の深い闇へと連れ去られてしまった。
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