三角形というのはかなり価値のある発見だといえる。発見されてから時代は進んだ。そしてそれは人へも言える✕✕✕✕✕✕✕―――――ただの下ネタです。

「……これは詫びだ」

気絶してる黒鬼の傍に、そっとコンビニ袋を置いた。

中にはパン、おにぎり、ペットボトルの水。


「……単純に、休んでただけだろうしな。驚かしたのかもしれん」

丁度よさげなキャンプ地っぽいのを見つけたら、俺も勝手に居座る可能性はある。

それに、あいつの顔、どこか疲れているように見えた気がする。


「さ、行くか」

ゴリラとジロさんと、あと謎の猫に声をかけて歩き出す。

猫はすごい見た目してるけど、何者かはまだ分からん。

まあ、挨拶は寝床に戻ってからでいいだろう。



「っしょっと。はぁ……」

いつもの寝床に戻った俺たちは、焚火を囲んで間隔を空けて座った。

火の音だけが静かに響いてる。

そして、ジロさんが急に立ち上がって、胸を張る。


「おう、紹介するぜ! こいつはキャッツ! キャッツ・大西・アンドレア・マイクでぇ! 一緒に旅してた俺っちの弟子でぇ!」


……すごい名前が飛び出してきた。

キャッツはぺこりと頭を下げる。


「キャッツ・大西・アンドレア・マイクです。……あの、師匠共々、よろしくお願い致します」

俺とゴリラは思わず目を丸くする。


「……すんごい名前だな」

「アンドレア・マイクて……」

キャッツはもう一度、丁寧に頭を下げる。


「よく言われます。名付け親は師匠ですが、師匠も普段は長いのでキャッツと呼んでいます。モモ太郎さんとゴリラさんも、キャッツと呼んでいただければ」

名前は何であれ、キャッツはそのまんま猫で、礼儀正しいその様がまた可愛い。

見た目は派手でも、ちゃんとしてる奴ってのは、好感が持てる。


「わかった。じゃあ、よろしくなキャッツ」

「よろしく、キャッツ。言うまでもないけど、お前も俺のことはゴリラでええで」


焚火の火が落ち着いてきた頃、俺たちは酒盛りを始めていた。

ゴリラが持ってきた謎の果実酒を、ジロさんが「これは効くぜぇ」と言いながら回してくる。

キャッツも小さな器でちびちび飲んではいるが、どうも自家製のマタタビで造った酒の様で、無くなっては腰に付けたひょたんから注いでる。やはり猫、されど猫。でも、座り方は妙に礼儀正しい。


「で、結局、なんでキャッツとはぐれたの?」

俺が聞くと、ジロさんは急に真顔になって、焚火を見つめた。

「……あれぁ、曇ってる日でぇ。……一粒一粒がでけぇ、雨粒がよぉ、ポツポツきやがった時……」

ジロさんは言って、俺とゴリラに目を合わして溜める。

「獲物が見えたんでぇ……。かなり上物で、灰色の世界でそれの付近は色を持って輝いていやがった」」

「お前……それ、パンツの事言ってるなら、この場で焚火に放り込むで」

ゴリラが即座に突っ込み、ジロさんは何も言わず手に持ったコップに口を付ける。

「……んで、ほんまに黙るんかよ。マジでパンツ追いかけてはぐれたんか、ボケお前」

キャッツは苦笑いしながら、器を傾ける。

「師匠の、獲物に対しての熱はかなりの物です。動きは僕をも超える俊敏さで」

「まあ、犯罪やからな……俊敏さは大事なんやろうな。知らんけどさ」

ゴリラが言うと、キャッツが少しだけ真面目な顔になる。

「でも、師匠の俊敏さは、その、剣の動きにも生かされているんです。……僕も教えていただいてるとき、最初は一切師匠の太刀筋が見えませんでした」

「え、まじで? 動いてるものの方がよく見える猫やのに、このアルマジロの動きが見えんのっ?」

俺が思わず聞き返すと、ジロさんがどや顔で器を掲げた。

「へっへっへ。俺っちは意外とやるんでぇ。崇め仕れ、馬鹿げぇ、死ねぇ」

「マジかよ……」

「ほんま意外やな……。つうか、死ねっていうな、アホ」

俺とゴリラが同時に驚く。キャッツはこくりと頷いた。


「修行では誰にも見られず獲物を奪うとかもよくやりました……意外とそれが、今、応用できてるのもあったりします」

「嫌やなそれ。居合でかっこいいのに、下着泥で鍛えたて……」

ゴリラは言いながら我慢できずに吹き出し、俺もつられて笑いを堪えきれない。


「僕も、正直、それは少し嫌です。ただ、師匠は……動きが独特ですが、教え方は的確です」


キャッツの言葉にジロさんは酒をあおって、焚火に向かって叫ぶ。


「おめえらなぁっ、勝手にあーだこーだ言ってやがるが、俺っちはパンツも剣も、どっちも命懸けなんでぇ! ばっきゃろぅぃ!」

「いや、パンツに命懸けんなや」

ゴリラが呆れて言うと、キャッツがぽつりと呟いた。

「……でも、本当に、梅さんの家では命の懸けあいがありました」

「本当に命の懸けあいがあった!? なにやってんのそれっ」

俺が突っ込むと、キャッツは少しだけ困った顔をして、器を見つめる。

「……気づいた梅さんは多才でした。農具ですが、そのどれもが軌道が読めず……」

「最強ババアやったんや。……なんかおもろいな」

ゴリラがまた吹き出すと、ジロさんが急に真面目な顔になる。

「なにも、俺っち達ぁやられただけじゃねぇぜぇ? キャッツの“無音踏み込み”はその時編み出したもんだしよぉ」

「無音踏み込み……」

俺は思わず聞き返す。

「ああ。あれぁ、見事だったぜぇ。おかげで動きを止めることができたぁな」

「いや、ババアになにしてんだよ!」 

「ほんまや! ババアと本気でいい勝負すんな!」

俺とゴリラが同時に叫ぶと、キャッツがくすっと笑った。

「でも、僕は……そういうトラブルも含めて、師匠に感謝してます。旅の途中、何度も助けられましたし、剣の基礎も、礼儀も、全部師匠から教わりました」

ジロさんは照れたように鼻を鳴らす。

「へっへっへ。俺っちはなぁ、パンツだけじゃねぇんでぇ」

「ほんまか……いや、確実にパンツだけやと思ってたわ」

ゴリラが呆れながら笑う。俺も、なんだか笑いながら器を傾けた。

焚火の火が、ゆらゆらと揺れている。

こんなくだらない話は深夜まで続いたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る