第二十一話 舞の踵

 風が止むと、室内は不気味なまでに静まり返る。


 舞の目の前に立つ男二人は、不気味な笑みを崩すことのないまま一歩踏み込む。


 舞は動じることなく眼前を見据え、男二人の動きを注視する。


 舞から見て左に見える短髪の男は、黒色のワイシャツの胸ポケットに右手を入れ、あるものを取り出す。


 それは、銀色に光る刃物だった。


 舞は眼差しを変えることなく口元を緩め、左手の握り拳を解く。


「どうする気?」


 舞が声に笑みを含ませながらこたえると、銀色の刃物を持った男は表情を崩すことなく、低い声でこたえる。


「決まってるだろ。お前を……」


 男がその先の言葉を発しようとした次の瞬間、舞の革靴の底が刃物を捉える。男の手から解放された刃物は床を叩く。


 男が眼光を鋭くさせ、刃物を拾おうとした姿が目に飛び込むと、今度は舞の踵が男の頭頂部を捉える。


 男は舞の踵による衝撃で、顎を床に打ち付け、うつむいた状態で倒れる。


 舞はうつむく男に鋭い眼差しを注ぎ、静かに息をつく。


 舞の視線はやがて、もう一人の男に向く。


「さあ……」


 一言吐くと、眼差しを変えることなく舞の口元が緩む。


「改めて聞こうか。私をどうする気?」


 やや強く吹き付けた風は、男が発した言葉をかき消し、舞の眼差しをさらに鋭くさせた。


 

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