第十七話 鋭い左ストレート

 男は右手に携えた細長い金属を右手で振り下ろす。


 舞は遅れることなく避けるとしゃがみ込み、鋭い眼差しを男に注ぐ。


 男は舞に視線を注ぎながら不気味に口元を緩め、金属を握ったまま自分の右肩に置く。


「運動神経は良いみたいだな」


 男が低い声を発すると、舞は躊躇うことなく頷く。


「ええ。運動は得意ですから」


 優等生らしからぬ獲物を狩るような目つきで男に視線を注ぐと、両脚をバネにするように立ち上がり、素早く右手の拳を腹部に突きつける。


 舞の拳には、男に腹部を捉える感覚が伝わる。


 男は険しい表情で左手を自分の腹部に当て、うずくまる。


 しかし、金属は手放さない。いつでも、反撃ができる準備は整っている。


 舞は反撃を防ごうと金属に視線を注ぎ、右足を振り上げる。舞の右足のつま先はやがて金属を捉える。


 金属は壁に直撃し、カンッという音を立てる。床に転がるとカランカランという音を発し、そのまま男から遠ざかる。


 男は金属を拾おうと振り向く。


 その瞬間、舞の左腕がまっすぐに伸びる。


 ボクサーのように鋭い左ストレートは男の顎を捉える。


 男は言葉にならない声を漏らし、そのままフローリングに仰向けになった。


 舞はそんな男の姿を目の前に「ふぅ……」と静かに息をつき、周囲を威嚇するような眼差しで周囲を見渡した。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る