第十六話 「お邪魔してます……!」

 舞の右手の拳は、男の腹部を捉える。


 男は一瞬だけ苦しい表情を浮かべると口元を緩め、右手を握りしめる。その拳は容赦なく舞の左頬を捉えようとする。


 才色兼備の女子高校生は、鋭い目つきで男の動きを注視し、左手で男の拳を払う。


 パンッという音が立つと、男は左手に握り拳を作り、今度は舞の右頬を狙おうとする。


 舞は男の腹部から遠ざけた右手を開くと、白い歯を見せる。


 男が険しい表情を作ると、舞は飛んでくる拳を右手で振り払い、左手を握りしめる。


 やがて、舞の左手の拳は、男の顎を捉える。


 男は漫画のように宙を浮くと、そのまま仰向けの状態で倒れる。


 舞は静かに息をつくと拳を解き、男に鋭い眼差しを注ぐ。


 男は起き上がる動きを見せることなく、仰向けの状態になっている。


 組織の人間であろう一人の人物を倒した。だが、舞は安心した様子を見せることなく室内を見渡す。


「きっと、まだいるよね。組織の人間であろう人物が……一瞬の隙を見せたらそこを突かれて倒される。気は抜けない。組織を壊滅に追い込むまでは……」


 低い声で呟き、舞は靴を脱ぐと右足からフローリングの床を踏みしめる。


 明るい空間を進んでいくと、茶色のドアが舞を出迎える。


 舞は新品同様の銀色のドアノブに右手をかけ、ゆっくりと捻る。そのままドアを引くと、物置のような明るく小さい空間が舞を出迎える。


 室内には、箪笥たんすなどの家具が並んでいた。


 室内を見渡し、舞は右足を踏み込ませる。


 すると背後から、足音が聞こえてきた。


 舞はにやりと口元を緩めると、足音の主に語りかける。


「お邪魔してます……!」


 ゆっくりと振り向いた先には、細長い金属を右手に携えた男が一人、不気味な笑みを浮かべ、立っていた。


 舞は男と正対すると、右手をゆっくりと握りしめた。

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