第十五話 「早川舞、だな……?」

 ドアが閉まると、舞は空を眺める。


 すると舞の脳裏に、男性が発した言葉が流れる。


「『そっちにもあるだろ』って、何があるんだろう……」


 唸るように息をつき、頭の中で考えを駆け巡らせるが、答えは導き出されない。


 舞は考えることを一度止め、正面を見据える。


「唯一分かることは、こことは別に拠点があるということか」


 別の拠点の場所はこの時、謎の状態。ヒントはどこにもない。


 だが、まずすべきことは――。


「まずは、この拠点での最初の戦いが待っている。この戦いに勝って、別の拠点の場所を探り出す」


 舞は力強い声で自分に言い聞かせ深呼吸すると、右足を踏み込ませる。


 建物の敷地に近づくにつれ、舞の心に熱が帯びていく。


 敷地の砂を踏みしめ、さらに歩みを進めていく。やがてドアの前に立つと、鋭い眼差しで眼前を見据え、右手をゆっくりと銀色のドアノブに伸ばす。


 やがて舞の右掌に、冷たい感覚が伝わる。


 舞はドアノブをゆっくりと捻り、そのまま引いていく。


 徐々に建物の内観が舞の目にうつる。


 ドアが完全に開くと、玄関と明るい空間に包まれたフローリングの廊下が舞を出迎える。


 戦いの場所には不釣り合いの景色だった。


「ここ……?」


 舞が疑問を含ませた言葉を漏らしたその時、背後から足音が聞こえてきた。


 舞は浮かせようとした右足の動きを止めると、にやりと口元を緩め、鋭い眼差しを作る。


 その姿はファイター、そのものだった。


 足音が止むと、男の重みのある声が舞の耳に届く。


「早川舞、だな……?」


 舞は五秒ほど間を挟み、首をゆっくりと振る。


「ええ……」


 舞の右手に拳が作られる。


 舞はそのまま振り向くと、重みのある声で言葉を続ける。


「早川舞です……!」

 

 自分の氏名を口にすると、右腕をまっすぐに伸ばし、拳を突き出した。

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