第十四話 拠点

 画面との睨めっこを開始してから二分後、舞の髪をやさしい風が撫でる。


 その風に操られるように、舞は顔を上げる。


 すると背後から、男性の声が聞こえてきた。数分前に耳にした声とはまったく違う声質だった。


 すると舞は、背筋に何かが走る感覚を覚え、近くにある物陰に隠れる。


 徐々に声が近づき、男性の姿ははっきりと舞の目にうつる。


 男性は舞に気づくことなく、後ろ姿を見せる。


 その瞬間、舞の目が見開く。


「あの男……!」


 舞の声に気づいたように男性は立ち止まると周囲を見渡した後、再び歩みを進める。向かった先は、あの時計塔のような白色の建物だ。


 男性の姿はやがて、ドアの向こう側に消える。


 舞はその場に立ち尽くし、建物のドアをただただ見つめる。


「あの男だ……!」


 舞が目撃したのは、裏道から姿を見せたサラリーマン風の男だった。


「ここが組織の拠点なのかな……それとも……」


 その先の言葉を発しようとしたところで、彼女の脳が口を閉じさせる。


「いや、ここが拠点なのかも……」


 こう言葉を漏らすと、舞は再びスマートフォンの画面と睨めっこする。


 右手親指で画面を操作し続けておよそ二分後、舞は確信をつかんだように小さく頷く。


「きっと、ここだ」


 力強い声を発するとマップアプリを閉じ、スマートフォンをバッグにしまい、眼前を見据える。


 その眼差しは、獣を狩るハンターのように鋭い形を作っていた。


「さあ、どうやって攻めようか……」


 舞は眼前を見据え、頭の中で考えを駆け巡らせる。


 するとしばらくして、男性の重みのある声が聞こえてきた。


 舞は声が聞こえてくる方向に一瞬だけ視線を注ぐと、再び物陰に隠れる。


 やがて舞の目に飛び込んだのは、左手でスマートフォンを握りしめ通話する、男性の姿だった。


 舞は彼の声に耳を澄ませる。


「そっちにもあるだろ」


 この言葉で、舞は疑問の声を漏らす。


「『そっち』……?」 


 男性は二言電話口で言葉を伝えると、白色の建物のドアに歩んでいった。

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