第七話 怪しい人物
翌日の金曜日、午前八時一分、中町駅の駅舎を抜けた舞の視線の先に、スマートフォンの画面を眺める男の姿があった。
黒色の上着を羽織ったその男は右手で画面を操作すると、スマートフォンを上着の胸ポケットにしまい、舞から見て右に歩みを進めていく。
舞が前日に歩んでいった方角だ。
彼の姿が見えなくなると、舞は背中になにかが走る感覚を覚える。
やがて舞の眼差しは、なにかを察したように鋭くなる。
「もしかして……」
舞が低い声を漏らすと、背後から結花のやさしい声が聞こえてきた。
「おはよう。舞」
舞の眼差しは我に返ったように普段の形を取り戻し、振り向く。
「おはよう」
舞が笑顔でこたえると、結花は頬を緩める。
二人はその場で談笑した後、足並みを揃える。
横断歩道の手前で足を止め、青信号に切り替わるまで舞は、平和という言葉がよく似合う快晴の空を眺める。
結花は舞が組織に立ち向かっていることを知らない。
もし、結花がそのことを知ったらどのような反応を見せるのだろうと心で呟くと、乗用車が通過する音が舞の耳に届く。
舞がその音につられるように正面を向いてすぐ、横断歩道の信号が青に切り替わる。
舞は結花からわずかに遅れて右足から歩みを進める。
横断歩道を渡り終え、道をまっすぐに進んでいく。
やがて校舎が見えてくると、結花が口を開く。
「昨日さ」
結花がその先の言葉を発しようとした次の瞬間、舞の背中にゾクゾクという感覚が走る。
舞はその場で足を止めると、素早く振り向く。
舞の視線の先には、北東学園高校の制服を身に纏った生徒の姿がうつる。
「なんだったんだろう……」
舞が低い声を漏らすと、結花が問いかける。
「どうしたの? 舞」
舞は「いや……」と前置きし、言葉を繋ぐ。
「なんでもない」
舞はバッグからハンカチを取り出し、額の汗を拭う。そしてゆっくりと振り向き、結花に笑顔を見せる。
「ごめんね。行こうか」
結花にこう語りかけ、校舎に向けて歩みを進めていった。
二年二組の教室に足を踏み入れ、自分の席へ赴くと、机上にバッグをゆっくりと置く。
「誰だったんだろう……あの人は」
舞の背中には、未だにあの感覚が残っている。
これはなにを示しているのかと考えながら、教室の窓にうつる景色を眺める。
「どこなんだろう……九時の方角って」
低い声を漏らすと椅子を引き、座面に腰を下ろす。
バッグからペンケースを取り出し、机上に置くと天井を眺め、呟くように言う。
「どこにあるんだろう……ファックスに記されいるタワーは」
教室後方から聞こえてくる結花の楽しげな声に耳を澄ませながら舞はゆっくりと目を閉じ、頭の中で考えを駆け巡らせた。
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