第六話 向かい風と追い風
舞は校門を出ると立ち止まり、スマートフォンの地図アプリを開く。
「とりあえず、西の方向に行ってみないと分からないし……」
西の方角は、舞から見て右だった。
舞は地図アプリを閉じ、スマートフォンをブレザーの右ポケットに入れ、歩みを進めていく。
しばらく行くと、中町駅の駅舎が見える。
舞は駅舎前の広場に足を踏み入れると左に曲がり、歩道に出る。
踏切を渡り、さらにまっすぐ進んでいくと、目の前の横断歩道の信号が青に切り替わる。
交差点を左折した白色の軽自動車が目の前を通り過ぎた後、舞は横断歩道を歩み、まっすぐ進んでいく。
校門を出てから三十分が経過し、大型ショッピングモールの外観が舞の目に飛び込む。
その途中にタワーのような建物が見つかることはなかった。
「九時の方角って書いてあったから、西の方角にその建物があると思っていたんだけど、違うのかな」
足を止め、大型ショッピングモールの外観を眺めながら言葉を漏らした舞は、スマートフォンを右手に握ると、地図アプリを開く。
「もしかしたら、大型ショッピングモールの向こう側にあるのかな……」
舞はさらに西を目指してみようと、右足をわずかに浮かせる。
すると同時に、彼女を引き返らせようとするような向かい風が吹きつける。
舞はその風に目を細めると地図アプリを閉じる。
風が止むと、舞の眼差しは元の形を取り戻す。
「拠点はその先にはないってことなのかな……」
舞は向かい風をそのように解釈すると、スマートフォンをブレザーの右ポケットにしまい、体の向きを百八十度変え、そのまま歩きだした。
中町駅の駅舎が見えてくると、背後からやさしい風が吹き抜ける。
駅舎前の広場に足を踏み入れようとしたところで風は止み、上空の太陽が舞の影をアスファルトに濃くうつしだす。
「どこにあるのかな。奴らの拠点は」
自分の影を見つめながら呟くと、右足から中町駅の駅舎に歩んでいった。
午後五時五十三分、舞は帰宅し、階段を上る。寝室のドアをゆっくりと閉めると、静かに息をつく。
「明日は、台府駅方面を探ってみよう。もしかしたら台府駅を中心に見て、九時の方角かもしれないし。でも、タワーという呼べるものは、オフィスビルとマンションしかないし……それに、西かどうかも……」
舞の頭の中をあらゆる考えが駆け巡る。
組織の拠点はどこにあるのか。そして、タワーとはなにを示しているのか。
舞は心でそう呟き、右足から踏みだし、バックを机の脇に置く。そしてそのまま窓際に立ち、すっかり暗くなった十月の空を眺めた。
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