2.
何代も前、村に坊さんがやってきて住み着いた。
これがもうひでえ生臭坊主で、村中の女に手を出すわ、病人につけこんで詐欺同然に金を巻き上げるわのやりたい放題だったんだと。まあまともな坊主がこんな辺鄙なとこへわざわざ落ち延びてくるわけもないよな。
たまりかねて寺に談判に行った男たちもいたんだけど、まだ若いのに急に血を吐いて倒れたり蝮に噛まれたり、妙な死に方をする。村の人間は坊主に呪詛をかけられたんじゃないかって怖がって、次第にいいなりになるようになっていった。それを見かねたのが俺の高祖父にあたる人だそうで。
何が呪いだ、そんなもんがあるなら俺一人が背負ってやる——っていって、嫁さんがとめるのも聞かずに、その、つまり坊主を強引に始末してしまったんだと。
で、今際の際の坊主が言ったのが「お前の一族を末代まで祟ってやる」っていう…
あんまりベタなんで俺はちょっと笑ってしまったよ。
村の人たちはさぞ感謝したろうって思うだろ?それが逆で、内心みんなほっとしてるくせに、触らぬ神に祟りなし——みたいに除け者にするようになったんだと。まるで呪いが伝染るのを怖れてるみたいに。
よせばよかったんだけど、高祖父も坊主のためこんでた金を懐に入れちまったらしいんだ。
それからはどんどん坊主の言った通りになっていった。
それも直接じゃなくて、外から嫁に来た人とか親しくしてる人とかが次々不幸な目にあうんだと。どれも偶然で説明のつくようなことなんだけど、偶然が立て続けに起こること自体がもう偶然じゃないだろ?
逆に長男とか、あとをつぐ立場の者はどんな目にあってもなかなか死なないんだって。
ひいじいちゃんは悪い病気をもらって足も立たない、目も見えなくなってから三十年生きた。
じいちゃんは戦争で手足三本失って、ばあちゃんにさんざん世話をやかせながら五年前まで存命だった。
自分だけ生き残ってしまったことの意味を考えて、俺はすごくいやな気分になった。つうかもし呪いだとして、坊主もそんなことができるならさっさと高祖父を亡き者にしてしまえばよかったのに。
「そりゃあ…ねちねち苦しめた方が楽しいからに決まっとるわ」
ばあちゃんはこともなげに言った。
「だからねえ、あんたの父親に言ったんだよ。こどもは作りなさんなよ、あんたで終わりにするんだよ、って」
婆ちゃんの言葉は親父を通り越し、俺に言い聞かせているように思えた。誰かを不幸に巻き込みたくなかったら、誰も好きにならず、結婚もせず、ひとりで生きて死んでいけと。
今だったら、家庭を持つことだけが幸せの全てじゃねーし、自由気ままなシングルライフもありじゃね?と思うんだけど、なんせ当時は小学生だ。
お嫁さんをもらって家を買って——まだぼんやりした想像だったけど、親になったらいろんなとこへ連れてってやって、授業参観にもちゃんと行って、両親が俺にしてくれなかったようなことをいっぱいしてやりたいと思ってたんだ。
漠然とした不安と悲しさで俺はそのころ泣いてばかりだった。 負い目を感じたのか、やっぱりただひとりの孫だからなのか、婆ちゃんはすごく優しくしてくれた。
暮らしそのものは両親と一緒だったころよりうんと快適だった。本とかゲームソフトも頼めばどっかから取り寄せてくれたし、テレビのチャンネルが少ないこと以外は言う事なしだった。
俺が小5になったころ、東京からやってきた家族があった。
村でもとくにぼろっちい空き家を買ってちょいちょい直して、シャレオツな看板なんかかけてさ—
あれじゃね?自然たっぷりな田舎でオーガニックスローライフ(笑)的なしゃらくせえやつ。
婆ちゃんに言われて何度か野菜を届けに行ったけど、いかにもいかにもな感じの夫婦がインド綿のエプロンかなんかして妙にニコニコ働いてた。
そこんちにちょうど俺と同い年のMちゃんって女の子がいた。長めの髪の毛をうしろひとつむすびにして、いつもTシャツとキュロット姿のおしゃべりな子だった。
Mちゃんは最初からちょっとうっとおしいなってほど積極的に俺にいろいろ話しかけてきた。めんどくせえ、と思うこともあったけど村にはほかに同年代の子もいなかったし、なんとなくのうちに俺たちは友達っぽい感じになって行った。
人との接し方がわからない俺にも関わらずそうなったのは、Mちゃんが女の子女の子していなかったからかもしれない。
彼女は俺なんかよりずっと昆虫や魚のことに詳しかった。
「Mはさあ、俺んちの話、聞いたことないの?」
一度だけ、俺はそう尋ねてみたことがあった。
「ああ、お坊さんの呪いがどうとかいうやつ?」
……やっぱり知ってた。村の人間に吹き込まれたらしい。
古典怪談って感じでカッコいいじゃん!なんてMちゃんは笑っていた。人ごとだと思ってんなあ、俺はぶつくさ言いながらも、そんなMちゃんの態度になんかすかっとした気持ちだった。
「末代までってさー、めんどくさくなんないのかな。そろそろ飽きたし成仏したいなって思ったりとかさあ」
Mちゃんが言っていたことを、何故だか印象深く今も覚えている。
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