末代リセット
@oden_oishii
1.
先に謝っとく。たいして怖い話じゃないし、本当のことだからつまらんかもしれん。長くなるから面倒な人はスルーしてくれて構わんよ。 長年の疑問がここ最近腑に落ちたってだけの話だ。
最初に言っとかなくちゃいけないんだけど、ぶっちゃけ俺はゲイだ。いやそういう話じゃなくて。女装の趣味があるとか、女の子の遊びが好きだったとか、そういうことは一切ない。ただ女の裸を見たところでおっぱいでけーな、とかそういう感想は抱くものの勃起しないってだけで。
だからって訳じゃないけど、俺の家庭は無茶苦茶なもんだった。母親はまったく家事をしない人で、家族の食った弁当やパンのゴミで床の色を見た覚えがない。
テレビでよくゴミ屋敷の特集なんかやってて、人が住んでるのが不思議だなんてみんな言うだろ?
あそこまでは酷くないが俺んちもあんなようなもんで、友達の家にも行ったことのなかった俺は(そもそも友達なんていなかったしw)家の中なんてどこもあんなようなものだと思ってた。
母親はヒステリックに俺をぶったり金切り声をあげたりする人じゃなかったんだけど…なんていうのかな、人の顔を見ると小さい声でずーっと文句を言い続けてた。それは俺に限らず父親や近所のおばさん相手でも同じだ。
まあ、今にして思えば母親がああなるのもわからなくもないけど。
父親に向かってはとくに執拗で、長々とした愚痴の後には毎度必ず「知ってたら結婚しなかったのに」って言葉が出る。なんの事だかわかったのはずっと後だった。
親父はなんていうか、無気力の擬人化とでも言うか…ワタボコリが静電気で人間の形になってるみたいな人だったな。いつ見てもテレビの前に横になってて、今思えばどっか具合が悪かったのかもしれない。母親に何を言われても同じ調子でさ。
あれ、そういえば仕事してるの見たことない気がするな。そんなに貧乏してた覚えもないから、無職ってこともなかったんだろうけど。
いろいろ曖昧ですまんな。なにしろあの人達と暮らしたのは小学三年までのことだったから。
ある晩にさ、普段俺のことなんか見向きもしない親父にきゅうに呼ばれてさ。
「ごめんな○○(俺の名前)、お前には背負わせないからな」ってボロボロ泣くの。わけわかんないし夜遅いし、俺はとっとと寝たかったんだけどね。もっとちゃんと話を聴いとくべきだったんだなあ。
次の日、普段適当なだるだるシャツんかで過ごしてる母親が珍しく父兄参観みたいな格好してて、もう何年も動かしてなかった車に乗せられた。あれはたぶん、ずっと車検を更新してなかったんだろうな。
珍しく家族で出かけるんだ、と後部座席でワクワクしてたんだけど、いっこうに発車しない。母親は車の窓にガムテープを貼っている。
子供の俺はただ、何してんだろうなとしか思わなかったけど。どこ連れてってくれるの?としきりに尋ねる俺に、父はごめんなごめんなって泣いてた。あの涙でグシャグシャになった真っ赤な父の顔は、十年以上経っても忘れられない。
それからのことは覚えてない。次に気がついたのは病院のベッドだった。
見たこともない婆ちゃんが俺を見てすごく泣いていた。その人はどうやら俺の父方の祖母らしかった。らしかった、というのは、俺はそれまで一度も祖父母に会ったことがなかったのだ。
まわりの大人は必要以上に優しくて、なにかと俺に気を使ってるみたいで、だから俺は誰かに教えられる前に両親が死んだんだってことを悟った。
その時はぜんぜん実感できなくて、でも、ああそうなのかと妙に納得しているところもあって——すまん、あの頃の感情は自分でもよく分からん。
入院中、すごく良くしてくれた看護師さんがいた。婆ちゃんが何度もその人に頭を下げているのを見かけたから、あの子をよく見てやってくれってお願いされてたのかもしれないけど。
ぶっちゃけ顔はぜんぜん美人じゃないんだけど、すらっとしててスタイルがよくてさ。とにかく手が綺麗なの。
最初のうち、起きられない俺を丁寧に拭いてくれたり、ションベン手伝ってくれたり。落語が好きだって言って、あったかい声でおもしろい話をいくつも聞かせてくれた。あの人が居たから俺はどうにかならずにすんだのかもしれん。
正直に言う、あれが俺の初恋だ。え?うん、男の人だよ。
あの入院をきっかけに俺の中でいろいろ変わったんだと思う。
それはそれとして、退院した俺は婆ちゃんの家に引き取られることになった。ほぼ山梨に近い埼玉の山奥だったんだけど、昔のJホラーに出てきそうなあまりにでかい屋敷に俺は驚いた。
今はすっかり落ちぶれてしまったけど、何代も前はすごく立派な家柄だったらしい。父は全くそんなこと教えてくれなかったけど。
婆ちゃんはだだっ広い畳の部屋で俺にふかぶかと頭を下げた。
「(俺)ちゃん、ごめんなあ、あんたはなーんにも悪くないのになあ。ごめんなあ」
わけがわからない。
「たのむから、ほんとにあんたで終わりにするんだよ」
それから婆ちゃんは因縁めいた話を聞かせてくれた。
なんかそれこそ横溝正史の出来損ないみたいな話で、今でも俺は全部を信じたわけじゃない。なんとなくいろいろと繋がった気がするから、整理しながら書いてみるわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます