第11話 山村での小休止 1

 塔を後にして、山道を進む。

 昼間の戦闘の疲れが足に残り、石畳の坂道がやけに長く感じられた。

「今日は境界街まで戻るの?」フィオナが肩の荷を直しながら尋ねる。

「基本は野営だ」レオンは淡々と答える。

「でも……今回は寄ってもいいかもしれない」

 フィオナがすかさず笑みを浮かべる。「じゃあ途中の山の村に寄ろうよ。温かい食事と宿が恋しい」

 ルゥが水色の鱗を揺らしながら、尻尾をぴんと立てる。

「ボクも賛成〜。フィオナの料理よりはマシなものがあるはず」

「はぁ!?」フィオナが振り返る。

 レオンは肩をすくめ、「……今回は寄ることにする」と進路を変えた。


---


 しばらく黙って歩いていたフィオナが、ふと思い出したように口を開く。

「そういえば、さっきの戦いで使ってた《ギフト》って、どういう魔法なの?」

 レオンは少し間を置き、山道の先を見ながら答える。

「簡単に言えば、自分の持っているものを相手に渡せる。今回やったのは“能力の使い方”の譲渡だ」

「使い方?」

「能力そのものを渡す場合、もともと才能がなければ使えない。だが使い方だけなら複製できるから、渡しても自分には何のデメリットもない」

「じゃあ、才能がない人に能力の譲渡は?」

 レオンは視線を逸らし、「……やったことない」とだけ答えた。

「ふーん……他にもできるの?」

「魔力の譲渡や体力の譲渡もできる。燃費は悪いがな」

 ルゥが得意げに胸を張る。

「ボクはすごい才能があったから、五属性全部の攻撃魔法が使えるんだよ。威力は中くらいだけどね」

 フィオナが目を丸くする。「そんなこともできるなら、最強の部隊とか作れるんじゃない?」

 レオンは短く息を吐き、「……基本的にはそんな才能のやつはいない」とだけ返した。


---


やがて、山肌にへばりつくように並ぶ石造りの家々が見えてきた。

谷を渡る木橋の向こうに、段々に広がる村——グレイヴ・パスだ。

夕暮れの光が山の稜線を朱色に染め、家々の赤茶色の瓦が柔らかく輝いている。

煙突から立ち上る夕餉の煙が、冷たい山風に乗って香ばしい匂いを運んできた。

橋のたもとから坂道沿いに広がる市場では、鉱石や薬草、王国の魔法素材が並び、山の民や隊商が声を掛け合いながら行き交っている。

荷車の車輪が石畳を軋ませる音、遠くで響く鍛冶場の金属音、そして谷底から絶え間なく聞こえる水音が、村全体を包み込んでいた。

フィオナは薬草の束に目を輝かせ、ルゥは市場を見回して「怪しい人、多いね」とぽつり。

レオンは人混みの中で視線を巡らせ、前に来たときとは微妙に変わった空気を感じ取っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る