第9話 手紙と魔術師 5

 霧の中で崩れ落ちたガレスが、かすかに呻き声を上げた。

「……俺は……何を……」

 レオンは無言で見下ろす。

 ガレスは額に手を当て、苦しげに続けた。

「気付いたら……“オルヴィス・グランツ”の部屋にいて……『戦え、力の限りに』と……」


 その名に、レオンの表情がわずかに硬くなる。

 かつて自分を王都から追放した張本人——そして、ルゥを……。

 ルゥの翼がわずかに震え、尾の先が小さく揺れる。本人は気付いていない。


「……あいつは、何を企んでいる」

 低く冷たい声に、ガレスは首を振る。

「詳しくは……知らない。ただ……『私の言うことに従え、家族の安全は保証する』と……」

 そして、かすれた声で付け加えた。

「……おまえには……悪いことをしたな……元宮廷魔術師……レオン・アルディス……」

 その言葉を最後に、ガレスは意識を失った。


「……は? 今、“元宮廷魔術師”って言った?」

 フィオナが目を丸くする。

「お前、そんな肩書き持ってたのかよ」

 ルゥが首を傾げる。

「……言ってなかったか?」

「言ってない! ていうか、初めて会った時に聞いたじゃん! “昔は何してたんだ”って!」

「……ああ、あの時か」

「“配達だ”って答えたでしょ! しかも“危ない橋は今も渡ってる”とか言って、全然教えてくれなかったじゃん!」

「事実だ」

「事実だけどさぁ!」

 ルゥがくすっと笑う。

「ほら言ったろ? レオンは昔の話をするときはだいたい話半分なんだよ。残り半分は黙ってる」

「それ、話してないのと同じじゃん」

「そういうこと」

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