第8話 手紙と魔術師 4

 霧の向こうで形を結んだ影は、一人の騎士だった。

 その背には巨大な翼、両腕には猛禽の鉤爪。

 人とグリフォンが無理やり融合させられた異形。


 レオンの目が細くなる。

 見覚えのある顔——王都で「レオンが娘をさらうように命じた」と嘘を言い、彼を追放へと追い込んだ騎士、ガレス。


「ここは……どこだ……俺と戦え……」

 低く唸るような声。

 その瞳は濁り、焦点が合っていない。

(洗脳か……しかも強化まで。本人は気付いていない)


  脳裏に、封書の送り主の意図がよぎる。

 ——共同研究は口実、断れば催眠と知識抜き取り、さらに古代魔法を使わせ情報を得るための融合体……

 しかも、兵士と魔獣との融合体とすることで、セレナの研究対象とすることを予測、国に報告しないと踏んでいる。

(……やり口が汚い)


 視線を横にやると、塔の入口でセレナが愉快そうに笑っている。

(……時間を操作して、今発動させたな……)

(これだからこいつは嫌なんだ)


「癪だが、受取主の安全は守る」


「フィオナ、右から回り込め。ルゥは上から牽制だ」

 短く指示を飛ばし、レオンは正面から迎え撃つ。


 ガレスが翼を広げ、突風と共に急降下してくる。

 鉤爪が地面を抉る寸前、レオンは片手をかざし、水の壁を瞬時に展開。

 衝撃を真正面から受け止めず、流れを逸らすように魔力を操り、ガレスの体勢を崩す。


 塔の前で、セレナが頬杖をつきながら目を細めた。

(……本気か? 以前より魔力が低い……いや、別の何かに魔力を注ぎ続けている……)

 思ったよりも弱く見えるその戦いぶりに、わずかな違和感が胸をよぎる。


 ガレスが翼で距離を取り、雷を纏った剣を振り下ろす。

 レオンは足元に魔法陣を瞬時に描き、風で自らの体を滑らせるように横へ移動、刃を紙一重で回避する。

 その動きは無駄がなく、まるで次の一手をすでに知っているかのようだった。


 セレナが口元に笑みを浮かべる。

「ふふ……ギフトは使わないの? あなたの切り札でしょう」

 そして、わざとらしく肩をすくめて続けた。

「ほら、受取主を守るのが“仕事”なんでしょう? ……それに、あの子——風の素養はあるわよ」


 レオンは一瞬だけセレナを睨む。

(……また人の魔法を解析してやがる)


 次の瞬間、レオンは低く呟き、両手を組む。

 足元に魔法陣が展開され、火と雷が絡み合う奔流が一直線に走った。

 轟音と共にガレスの巨体が吹き飛び、石畳を削りながら十数メートル後方へ叩きつけられる。

 立ち上がるまでの、ほんの数秒の猶予——。


 その間にレオンはフィオナの前に立つ。

「俺の固有魔法ギフトでお前に風魔法のブーストを渡す。……言ってもわからないと思うが、自分が早くなるイメージで戦ってみろ」

「……わかった!」


 レオンの指先から淡い風の魔力が伸び、フィオナの胸元へと触れる。

 一瞬、視界が開けるような感覚と共に、足元を押し上げる風の流れが生まれた。


「——っ!」

 フィオナの身体が霧を裂くように加速する。

 ガレスが立ち上がり剣を振り下ろすより早く、横合いから回り込み、刃を弾く。

 ルゥが上空から冷気を放ち、ガレスの翼の動きを鈍らせた。


「今だ!」

 フィオナが風に乗って一気に間合いを詰め、ガレスの剣を弾き飛ばす。

 レオンの雷撃が直撃し、融合の魔力が一瞬だけ解ける。

 ガレスは呻き声を上げ、霧の中へと崩れ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る