最終巻 時は流れて

第三十八帖 金紅「七歳にして次期皇太子争い」

まろの名は、金紅きんこう

皇太子・灰廉を父に、その愛妃・紅玉を母に持つ男皇子、よわい七つになる学年にございます。

一つ上に姉・柘榴がおります。

おじいさまにあたる金剛帝様は、昨年に五十賀ごじゅうのがを、絢爛豪華に開きました

(蛇紋国の平均寿命は齢五十五なのですから、実にめでたいことです)。

そしてその場で、来年、父上が齢三十になる折に譲位なさるおつもりであることを、世間に公表いたしました。

それは、同時に皇太子を立てるということでもあります。

現在、兄弟事情はこうなっております。


今年で齢八つ

女一宮、翡翠君の第一子、翠銅宮

女二宮、紅玉君の第一子、柘榴宮(姉)

一の宮、黒曜君の第一子、尖晶宮

二の宮、珊瑚君の第一子、桃廉宮

女三宮、瑠璃君の第一子、天藍宮

三の宮、翡翠君の第二子、緑柱宮


今年で齢七つ

四の宮、紅玉君の第二子、金紅(まろ)

五の宮、瑠璃君の第二子、菫青きんせい

六の宮、翡翠君の第三子、透輝宮


御子は男女が仲良くしているところに、コウノトリさんが運んできます。

わたくしと檸檬君も灰廉様とは仲が良いつもりですが、最初の五名には敵わないのか、家庭教師役に専念して欲しいとコウノトリさんが空気を読んでいるのか、運んできませんねえ。

まあ、わたくしは充分な庇護を頂いているだけで満足ではありますが。

と、琥珀先生は仰られます。


しかし、そんなある日、父上が、

「最初の二年でこれだけ頑張り、わたくしと妃全員を足したぶんより多くの子を授かったばかりか、檸檬君と琥珀君以外の全員に男皇子がおられるのだから、もう充分にございますよね!

 これ以上皇族を増やされましても、混乱と、租税食い潰しの人数が〜という国民からの不満が増えるだけにございましょう?

 ここからは将来の皇室の公務と品格の担い手として、ひとりひとりの人材の質を高めることを考えましょう?!」

と、おじいさまに吐き捨てるように申しておられるのを小耳に挟みました。

最初こそ、その語調の荒さに驚きましたが……

思えば、父上は、息子のまろから見ても、次期天皇らしく御立派に振る舞うことに長けすぎており、本心がよくわからないところがございますからねえ。

よほど「皆様と満遍なく仲良くし、コウノトリさんに認めてもらう」ことを、強く意識して頑張られたのでしょう。

内心は嫌な相手もいたりで、苦心しておられたとしても、コウノトリさんだって、そりゃ騙されてしまいます。


そんな、我々こどもたちにも平等にお優しい父上ですが、妃は我が母上が最もお気に入り、というのは、それとなく伝わってまいります。

できれば男子を次の皇太子にしたい、とおじいさまは思っておられるので、父上も母上もはっきりとは申しませぬものの、まろに期待をかけているのがひしひしと伝わってまいります。

なのでまろ、檸檬先生が教えてくださる勉学や楽器も、琥珀先生が教えてくださる運動や絵画も、兄弟の中で抜きん出られるように努力はしており、実際、御自身の母上に合わせてのびのびと自身の興味を伸ばしておられる珊瑚君、翡翠君、黒曜君の御子達よりはできるのですが

……瑠璃君の御子達だけは別でした。

特に同い年で、同じ男君の菫青宮が、皇太子を目指すには、目の上のたんこぶです。


「なぜ、この齢で、これだけ脇目も振らずに勉学に励むことができるのですか。

 まろは、どうしても少しは息抜きをしてしまいますのに」

当人に問うてみました。

すると、菫青宮とは仲が悪いわけではなく、寧ろ好敵手として認めてくれているような感じすらあります故、割とすんなりと答えてくださいました。


「母上がこう仰られるので。

 『今のうちに皇太子という最大の栄誉を得てしまえば幼子にして国一番の勝ち組、自身は何者なのかという悩みを持つことも一生ない、これ以上に頑張るべき所があるのか』と。

 『男子は皇室には残れるけど、帝様を狙える恵まれた立場にありながら、ここで手を抜いてその他大勢の皇族にしかなれなかったら、絶対に後悔いたしますよ』と」


戦慄いたしました。

この人は、この齢でそんな教えを受けているのか。

ということに加え……

史上の栄誉を得られなくなることよりも

……他の御子達のように、母上譲りの趣味を持っていない、まろのこと。

自分は何者なのか、と一生悩み続ける羽目になるかもしれない、ということが恐ろしかった。

し、しかし……

今から休みなく必死に学んだとて、一年間で菫青宮を凌ぐことができるのか……?


「母上は、何事も器用にこなされますが

 ……これといった御趣味はないのですか?」

「金紅、どうしましたいきなり?

 そうですねえ、結婚前は肉を焼いて売るのが趣味でしたけど、まあ皇室にはあまり相応しくありませんからねえ」

「ここでお売りになれば良いではないですか。

 珊瑚君の拉麺販売だって、品の良さなら似たようなものでしょう」

「焼肉はお召し物に匂いがつきますからねえ」

「結婚のために御趣味を捨てられたのですか」

「まあ、そのような言い方もできはしますが

 ……灰廉様のおそばにいられる方が、より幸せですからね」

母上はその名の通り、玉のような頬を紅色に染められました。

やはり……

母上の方でも、父上のことを

……皇太子様だから、というのは関係なしに、心から……

ああ、まろは、やはりこの母上の血を引いているのだなあ、と感じました。

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