第二十八帖 珊瑚・瑠璃「私は二子目は……」
次に御回復なされたのは珊瑚君です。
良きものを召し上がっているのか、たいそう健康的な肌艶をなされています。
「第二子はいかがいたします?」
「そうですねえ……郷里の両親からは、
『できれば国母は避けて欲しい、珊瑚がそこまで地位を上げてしまえば、自分達はただの小作人なのにますます世間の注目を浴びて、心穏やかに生きていきたいのに、やいのやいの言われる立場になってしまう』という内容の文が送られてきておりまして。
わたくしも正直に申し上げますと……同様の心持ちにございます。
「ふむ、ということは、夜伽はもうなさらぬ、と、」
まあ、黒曜君にそれを許して珊瑚君には許さない、というのも筋が通りませんし、構いませんが、
「そ、それは……
たしかにこれ以上懐妊すると困るのは事実なのですが
……お恥ずかしい話、完全になさらないのも寂しいというか、このまま育児と商売に追われて自身が女であることを忘れてしまいそうで、」
なんと!
冷静で一歩引いている印象のあった珊瑚君が、このような感情を抱いておられましたとは!
時にはただただ、わたくしの『男』を感じて張り合いを出したいと申されますか!
なんと甘美で、男冥利に尽きるお言葉!
「なるほど、ではこういたしましょう。
実は黒曜君も、まあ似たようなことを申しておりましたので、お二人の渡りの日を入れ替えてしまうのです。
さすれば、時に営みを行っても、御子のできる可能性は無に近づくでしょう」
「このような身勝手な御願いを聞き入れてくださるとは、ありがたき幸せにございます」
女房が桃廉を連れてまいりました。
「わたくしにそっくりにございますね」
「ええ、産声を上げた時の御顔を見た瞬間に、灰廉様から御名前を一文字いただこうと思いましたもの。
ただ、やたらと母乳を欲するので、体型が私の方にならないか心配でなりませんが」
「それだけ、健康的な珊瑚君の母乳が美味しいのでございますよ。
赤子のうちは、ふくふくとしていても可愛らしくて良いではありませんか」
最後に回復いたしましたのは、このわたくし、瑠璃です。
「舞姫時代のお衣装を纏われて、いつにも増して華やいでおられますね」
金剛帝様は、今は世継ぎに関してわたくしの提案を受け入れてくださっていますので、私は天藍を優秀に育てようと、懐妊時よりいつでも物語や子守唄を聴かせ、不断の努力を続けております。
しかし、朝令暮改の金剛帝様のこと、いつまた、やはり男児がいいと話を翻すかわかりませんので、男児を産めればそれに越したことはありません。
「やはり夫のあなたさまには、最も輝かしい姿を見ていただきたいんですもの」
目一杯しおらしくたおやかな仕草と表情を作り、やや腰を折って上目遣いで迫りました。
こういうのがお好きなんでしょう?
他の妃たちへの態度で、よくわかっておりますよ。
やれやれ……
あなたにはわたくしへの愛はなく、とにかく御子、できれば男児を作って国母になり、栄華を得たい一心しかないことなど、こちらはとっくにお見通し。
なのに、わかりやすく舐められたものだ、と、灰廉は心の中で溜め息を漏らしました。
し、しかし……
やはり舞姫の衣装は、女性らしく煌びやかです。
波を模したというひだの部分は薄手で青の半透明、隙間風にひらひらと靡いております。
問題は、このような衣装が映える瑠璃君のことを自ら妃に選んでおきながら、未だに彼女の心を捉えきれていないわたくしの努力・魅力不足の方なのかもしれません。
ならば、苦言を呈すなど御門違いで、好きでもない相手にこうも取り入ろうとする彼女の意欲に、笑顔で報いるべきでしょうね……
「ですが、これから寝床につくというのに、そのような繊細な生地のものを纏ったままでは、大切な御衣装がくしゃくしゃになってしまわれますよ」
「たしかにそうでございますね。
しかし、夜更けにこのような複雑な衣装、脱ぎ着するのも一苦労ですわ」
「お手伝いしてさしあげますよ」
いえ……
彼女の意欲に報いるべきだろう、などというのは
本心をわかっていながら、その上で生地と素肌の繊細な柔らかさに身も心も高揚を覚えてしまうわたくしが、どうしようもなく愚かなのです。
こうして嬉々として衣類を剥がしている時点で、欲が深く浅ましい、単純な男と侮られても仕方ありますまい。
しかしまあ、言葉が上滑りしているというだけで、こうすることでお互いが目的を達し、良い思いをできていることには違いがないので
……細かい欺瞞は気にせぬようにいたしましょう!
「ふぅ……
次は男御子ですと、育児も多様性が生まれて、よろしゅうございますがねえ……」
わたくしが申すや否や、女房が
「瑠璃君に瓜二つの色素の薄さと、御可愛らしさですね」
「そこにせっかく、灰廉様のお家柄と恵まれた経済力、ご健康な身体が加わるのですから、学も芸も学ばせ、国最高の女人に育ててみせますわ」
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