第二十七帖 翡翠・紅玉「第二子希望です」

まず産後からの完全回復を果たしたのは、やはり最初に御産を終えたわたくし、翡翠です。

「灰廉様あああ」

思わず喜びを爆発させて抱きつきました。

既に単衣ひとえ(肌着)一枚なので、彼の身体の逞しさを、全身で存分に感じ取ることができます。


「おっ、お元気そうで何よりです……

 も、もう次の御子をお作りになる気がおありなのですね……」

「もっ、もちろんにございます!

 蛍を女房に預けられる環境なので、気兼ねなく存分に取り掛かれますしね!

 金剛帝様もそれをお望みなのでしょう?!

 わたくし、遺伝の良さや教育力に自信はありませんけど、大勢の御子を成せば一人ぐらい大人物が出てくるかもしれませんしね?」


「またまたあ、あなたさまが真に楽しみにしておられるのは、子作り……の、行為にございましょう?

 子を持つお妃様ともあろうものが、殿舎に入るなりそのような御姿では、お恥ずかしゅうございますよ」

「おや、比類なく美麗な灰廉さまと、互いに若く元気のあるうちに、何度でも史上の快楽を愉しみたいと思って、

 自身の手の中にある得難い特権を享受し、むしゃぶり尽くしたいと思って、何がいけないのでございましょう?

 ふふっ……

 檸檬君は御子教育に専念させるとなると、灰廉様もお久しぶりですものね

 ……そのようなわたくしに負けず劣らずはしたないお姿で、第二子をお作りになるおつもり、満々ではございませんか」

「こっ、こちらのはしたなさは生理現象にございますし

 ……ええい! 皇太子を揶揄からかう罰当たりな娘には、お仕置きですっ!」

「きゃーっ!」


まったく……

あらがえない色香と愛嬌。

あまりにもそこに注目するのは貴人としていかがなものかとは思いつつも、どうしてもそこに視覚と触覚が集まってしまう、上半身の立体感と重み。

そしてあまりにてらいのない褒め言葉に、いつでもこうして釣られてしまうから、彼女のはしたなさをしっかり叱りきれなくて困るなあ

……と、つい快感に緩んでしまう口許くちもとを自覚しながら、わたくし、灰廉は思いました。

翡翠君は、節制をしているからなのか、特効薬でも服用しているからなのかはわかりませんが

……産後三か月としばし、とは思えないほどの体型の戻しぶりと、肌艶の良さです。

この行為をいち早く再開する為の努力をなさっているのだ、

それだけわたくしとの……を求めているのだ、と思うと、こちらも余計に込み上げてくるものがありました。


「ふぅ……」

わたくしたちが営みを終えたのを察知し、女房が翠銅を殿舎に戻しに参りました。

翡翠君に似て、髪の色は色素が薄く、小動物的な可愛らしさの強い御子です。

「翠銅のお召し物、萌葱もえぎ色に金刺繍と、とても華やかにございますね」

「黒曜君に華やかな柄の考案をと御願いし、仕立てていただきましたの。

 わたくしたちのように、華やかに愛される子に育っていただきたいんですもの」

「あはは、手前味噌ですね、悪い気はいたしませんが」

父上との矢文の遣り取りを控えるようになってからも、翡翠君は黒曜君と仲睦まじいようで、共に双六や香などをお楽しみになられていたり、身を寄せ合ったりしている御姿を、度々お見かけいたします。



次に御回復なさったのは紅玉君です。

「灰廉様……」

彼女が添い寝を望むのは、懐妊中も、産後すぐの時も変わりません。

そのような時はわたくしをいたずらたかぶらせぬよう、そっと触れる程度の添い方ではありますが、まことにわたくしと身体を寄り添わせるだけで安らぐのだなあ……と感じさせ、こちらもただただ存在を求められ、認められているのだと安らかな心持ちになります。


ですが、やはり今日は

……強く身体を添わせているのがわかります。

「やはり、男御子が……」

「はい……

 柘榴はこの上なく愛おしゅうございますし、子供自身の意思もわからぬうちから、必ずしも我が子を次期皇太子に、ほどの野心はございませんが、発言を右往左往させる御傾向にある金剛帝様のこと。

 今現在はどなたが次期皇太子になろうとも、五人の御子は全員皇室にお残しになるおつもりのようですが、今後あまりにも御子がお増えになられたら、

 『人件費による租税の使い過ぎは良くないので、二百年前の後宮時代のように、女児は婚姻したら天皇家を出ること』と、唐突に仰られかねませんから」


「全くもって左様にございますね、そうなりますと

 ……わたくしと紅玉君の愛の血統は、皇族内では一代も続かないこととなってしまいますね。

 そのような儚く、寂しきことは……できれば避けとうございますね!」


気がつくとわたくし灰廉は、腕の中に紅玉君を強くかき抱いておりました。

産ませます。

この方には絶対に、男児を産ませるのです。

「かっ、灰廉様

 ……愛が重とうございます……」

と言いつつ、紅玉君のお声には、圧迫感による苦しみの中に、愛し愛される喜びが入り混じっておりました。


「はあっ……はあっ……」

女房が柘榴を殿舎に戻しに参りました。

「大和国の御人形のような、すっきりとしたお顔立ちをされておりますね。

 紅色の肌着がよくお似合いです」

「あはは、灰廉様はそのように瞳が大きく、鼻梁びりょうがお高いわけですから、どう見ましてもわたくし似なわけで、わたくしがいかに普段、顔に白粉や紅を塗ったりひいたりしているかすぐに気取られてしまいますね」

紅玉君はお恥ずかしげに扇子で御顔を隠されました。

「いえ、あなたに似た、慎ましい品の良さでございますよ」

「またまたあ」

「いや、まあたしかに、あなたの華やかに変身するお化粧の技術も、素晴らしいものがございますが

 ……その、お一人でふた粒おいしい、と申しますか……」

「ふふっ、ですからね、柘榴にもこの化粧技術は絶対に習得させるつもりでいますよ。

 想ったお相手に愛される機会を、より広く持てることとなりましょうからね」

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