第三十帖 琥珀「御子はコウノトリさんが」

表彰式。

わたくしと琥珀嬢は、紅い布がかかった段に上がりました。

彼女は満面の笑みで御菓子を受け取りました。

二十歳でこんなに純真な方がおられるとは……

お着物もお上品で、きっと天河先生が柄をお考えになったのでしょう……

と、その笑窪と艶やかな黒髪をつい眺めていると、ふっと笑い返されて照れ臭くなり……


そんな様子を見ていた父上が仰られました。

「表彰台のふたり、お似合いだな。

 互いに満更でもないようだし、屈託がなく運動能力も高く芸術の才を受け継いでいそうな女人とは素晴らしいし、

 今年で齢二十一なら、瑠璃君、紅玉君と同年代で灰廉好みのようだし、

 どうです、琥珀嬢、灰廉の七人目の妃になられては?」

「ちょ、ちょっと……?

 わたくしにこれ以上の妃は果報者が過ぎるでしょうし、お二人を年齢で選んだわけではございませんよ?!

 あの時は初対面でしたし、顔や頭上に年齢が書かれているわけでもあるまいし!」


「こちらからしても、琥珀を後宮に送り出すのは、心配にございます……」

天河先生は冷や汗をかいておられます。

「ああ、遠慮を知らぬから、ということですかな?

 なあに、七人目の妃となるなら、勝ちを譲らないぐらいの気性の方が、逞しくやってゆけるさ」

「そ、それだけではなく、ですね……

 こ、琥珀はわたくしどもの手元に置いておくつもりでしたので、花嫁教育が行き届いておりませんで……

 た、たしかに身体能力は高く、絵も達者な方ではございますが、本当にそれだけで……」

「なるほど、芸術に専念したい天河先生たるもの、身の回りの世話をする若者は欲しいところですか。

 もちろん、お望みとあれば、きちんと帰省はさせますし、琥珀嬢ご自身の将来を考えれば、同年代や歳下のいる環境に身を置いた方が良いとは思いませぬか?」

「う、うーむ……」

こうも娘を妃に出し渋る御両親は初めてで

……こ、こうなりますと

……却って興味が湧いてきてしまいました……

「まあまあ、琥珀嬢、とりあえずわたくしと一度話し合ってみませんか?」



「わー、灰廉様の殿舎、煌びやかにございますねー。

 この海の絵も渋くて素敵ですー」

「何をすっとぼけておられる、面白い方ですね。

 お父上の天河先生の作ですよ」

「あははは!

 えっとですね、お父様はああ仰られますけど、わたくし自身は妃となることに乗り気なのですよ。

 とかく華やかで楽しそうですし、

 御子の教育は使用人の皆様や檸檬君もお手伝いしてくださるという噂ですし、」

「そうですねえ、」


「まあ、御産は大変そうではありますけど、そこさえ乗り越えれば。

 まずは年頃の男女が夜に仲睦まじくしていれば、わたくしのお腹にコウノトリさんが御子をお運びになられるのですよね」


「えっ」

な、なんと……

齢二十にしてその認識とは……

ま、まことのまことに、ご謙遜でもなんでもなく

……天河先生はこの方を嫁に出す気など、さらさらないのでございますね!

「ちっ、違いますよ

 ……えっ、えっと

 ……ごにょごにょごにょ……」


「あははは、灰廉様も面白い方にございますね!

 そんな訳がないではありませんか!

 そういえばお父様も同じようなご冗談を申しておりましたが、仮にそんな無茶が通りましたとしても、女人は次の日、痛くて歩けないではございませんか!」

な、なるほど……

因果が逆なのかもしれません……

正しい知識を与えても信じない、この状態で嫁がせたら相手方に悪いとお考えになったから、天河先生は琥珀嬢をずっと自分の手元に置いておく、と心に決めたのでしょう。

このような女人は、申し訳ないけれどお断り申し上げるより手立てが


……いや、まてよ。

後宮の殿舎は、まだ一つ空いています。

彼女を断ったら、またいつ父上がどんな女性を送り込んでくるか、わかったものではありません。

その点、彼女は、少なくとも暗殺を謀るなどの類ではなさそうですし……

「まあ、仰る通りかもしれませんね。

 夜は仲睦まじく絵画を見たり描いたり、双六などを楽しむといたしましょう。

 しかし、いかに男女仲がよくともコウノトリさんが来ないこともあるのが、人生の不思議なところです。

 というわけで、コウノトリさんが来るまでの間は、琥珀君には学び舎で、既に生まれている御子達に運動と絵画を教えてさしあげていただきたいのです」

「お安い御用にございます!」

しめしめ。

これで更に精力を、然るべきお相手のために温存できるというものです。

この朗らかさなら、前の妃たちと揉めることないでしょうし、

彼女にとっても、ここにいるのが最も、長きに渡って安心して生活できるでしょう。



ふたりで結婚の挨拶回りに出向くと、琥珀君の屈託のない可愛らしさに、瑠璃君、紅玉君、翡翠君は脅威を覚えられたようでしたが、彼女のコウノトリさん発言を聞くや否や、一様に胸を撫で下ろされました。

しめしめ……

いよいよ殿舎が、全て埋まりました。 


翡翠 珊瑚 琥珀

瑠璃 灰廉 紅玉

黒曜 学舎 檸檬


これにて、これ以上の脅威は起こりようもなく、安泰です。

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