第二十四帖 灰廉「六人目の妃候補はあの方?」
妃たちが各々、御子たちを抱いて殿舎に戻られますと、父上が申されました。
「ときに、
妃たちは皆、未だ産後の身体なのだし、かれこれ一年ほど静かな夜を過ごしておるだろう。
寂しくはあるまいか?」
「ま、まあ、世の幼子を持つ父親は誰もが通る道ですし、産後からの回復などほんのしばしのことにございますし、今は愛する妃と可愛らしい我が子と添い寝をすれば、充分すぎるほど満足にございますよ」
「しかし、そのほんのしばしの間を辛抱できずに他の女人に手を出した男は、古今東西、数知れずだ」
「なにを仰りたいのですか?
わたくしをそのような不届者だと?」
「いや、他の妃を相手にしておれば、万が一にもそのような不祥事は起こるまい、と申しておるのだ。
……実を言うと、次の皇太子もできれば男子が良いのだが、黒曜君と珊瑚君のあの様子と、仰るように彼女からの御両親の素性を考えると懸念があるからな。
まだ若いそなたの身体が空いている今のうちに、六人目の妃を迎えて更に盤石な皇太子候補を……」
「父上! いい加減になさってください!
最初は直系ならどんな妃の子でも、性別もどちらでも、と仰られていたのに、いざ五人お産まれになるや否や、男子でしかも申し分ない両親を持つ妃の御子が良いですと?!
どれだけ贅沢を仰られるんですか!」
まったく……
肩の荷が降りたと思った側から、もっと御子を! などとは、あまりにあまりではございませんか!
父上は、七つの大罪で言うなら、間違いなく強欲です!
そして、瑠璃君は傲慢。
他の妃への見下しが、透けて見えます。
紅玉君は嫉妬。
まあ、これはわたくしへの愛ゆえに、ですから、可愛らしくもありますが。
珊瑚君は暴食。
開発と称して、拉麺を食べ過ぎです。
夜伽の折に、もっと、もっととおねだりになりますし、その時のお部屋には常に、そのような雰囲気を高める甘い香りのお香が焚かれています。
黒曜君は憤怒。
御父上の入れ知恵とはいえ、義憤に駆られてわたくしを暗殺しに来られたのですからね。
ということは、残る怠惰がわたくし、でしょうか……
もちろん、公務と後継作りのみで忙しかったからなのですが、ここ一年以上、書物の一冊も手についていませんからねえ……
後の天皇ともあろう者がこのままでは良くないとわかってはいるのですが、今現在も産後の妃たちと五人の御子の手助けで大童ですし……
書物を読む
「いやまあ、しかし……
次々世代の天皇になるような人物なのだから、できれば家柄も頭脳も良く、あとは男子なら背の高い子がおれば、申し分ないではないか
……そのような条件を持つ女人の御両親と、既に話をつけてきてしまったのだが……」
「はいぃ?!
わたくしが選ぶのならまだしも、またもや黒曜君の時のように、条件ばかりを見て飛びつき、わたくしに聞きもせずに御本人や御両親と話をつけてしまわれたのですか?!
いい加減になさってください!
御自分に女人を見抜く目がないことを、御自覚なさってください!
相手をするのはわたくしなのですよ!」
「ああ、翡翠君のことだな?
たしかに灰廉から見れば困った性分ではあろうが、あの好色なればこそ最初に懐妊できたのだろう。
年齢もあって第二子以降にも期待が持てるだろうし、ならばあれぐらいは可愛らしいではないか」
何をにやついておられるのですか。
「いえ、彼女もまあ大概ですが、
最も手を焼いたのは翡翠君ではございませんよ?」
「なにっ?!
浮気気質よりも手を焼くとな?!
珊瑚君と黒曜君のどちらなのだ?!」
「まあ、該当者とはもう和睦いたたしましたし、わたくしの御子を産んでくださった女人ですから、彼女の株を下げるような発言は謹みますが。
どちらなのかもわからないほどの洞察力しかないのでしたら、後宮へのこれ以上の介入はお控えください。
妃も御子も五人も抱えれば、もう充分でしょう。
わたくしはこれ以上、面倒事を抱えたくはありません」
「なにがあったと申すのだ……
ま、わかったわかった、わたくしに人を見る目がないことは認めよう、認めざるを得ない」
父上は幼子でもいなすように、胸の前で掌を水平にひらひらと動かしました。
「しかし、結論をそう急くものではない。
今回は黒曜君の時とは違うのだから、安心したまえ。
わたくしも灰廉も、よく見知った娘だ」
「えっ……
となりますと、女房か女官にございますか?」
「そう、中でも最も背が高く、知性に優れており、家柄も申し分なく、翡翠君と同じ齢の娘だ」
「と、申しますと……
も、もしや
……
「よくわかったな。
それなら話は早いな」
た、たしかに
……抽象的な要望を聞くだけで、書庫から的確な書物や資料をお出ししてくださり、暇な時は読書で更なる研磨を欠かさない、非常に優秀な女官ですし、家柄も著名な学者の娘と聞いてはおりますが……
「で、ですが、彼女は前髪で顔を隠すほどに、非常に内気ではございませぬか。
本当に彼女が了承したのですか?
無理強いをしてはおりませぬか?」
「ふん、まあそれは人を見る目のないわたくしにはわからぬことだからな。
そなた自身が檸檬を見て判断するがよい」
ははっ……
父上、人を見る目がないと言われたことを、根に持っておられる……
「既にそなたの殿舎に檸檬を呼びつけておいたからな、ふたりでじっくり話し合うがよい」
「はっ、はい」
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