壮絶バトル! 裸の王様vsオオカミ少年
目の前の男、「KING」のジョブを有する男は、決して仇敵というわけではない。だがこの何でもありのバトルロワイヤルを勝ち残るには、どうしても倒さねばならない相手だった。
ここで出会ってしまったからには、戦うしかない。俺が武器を構えるもKINGは悠然と腕を組み、口の端を吊り上げた。
「さあ、跪く準備はできたかね?」
その瞬間、KINGの全身を覆っていた豪奢な王衣がふっと掻き消えた。いや、違う。俺の頭が、その服を「見えないもの」として認識し始めているのだ。ジョブ「KING」の固有スキル『裸の王様』! 自らの服を透明化させて強制的に裸になり、周囲の人間の知能を大幅に引き下げる恐るべきデバフスキルだ!
「ぐっ……!?」
視界がぐにゃりと歪む。目の前のKINGの威厳が、なぜか途方もなく偉大なものに思えてきた。まずい、このままではひれ伏してしまう……!
(こうなれば、こっちも切り札を使うしかない……!)
俺は慌てて喉を震わせ、自らの固有スキルを叩きつけた。ジョブ「トリックスター」の固有スキル『オオカミ少年』!
それは一定時間、発した言葉の真偽が裏返るというもの。相手プレイヤーに対して直接生きている(=死ぬ)といったような事はできないため使い所が考えられる、まさにトリックスターの真骨頂とも言えるスキルだ。
「お、お前は……裸だッ!!」
俺の絶叫がバトルゾーンに響く。その瞬間、脳を締め付けていた圧力がふっと軽くなった。俺の「嘘(この世界においては真実)」が、KINGの「虚構(素晴らしい服を着ているという認識)」に拮抗しているのだ。KINGの姿は徐々に裸から服を着ている状態に戻る。だが、スキルは完全に無効化できていない。まさに綱引き状態だ。
「ほう……面白いスキルを使う。だが、いつまで持つかな?」
KINGは余裕の表情を崩さない。まずい、このまま叫び続けても喉が枯れるかスキル効果時間が過ぎるだけだ。何か、何か打開策は……! 俺が焦っていると、KINGは心底不思議そうな顔で問いかけてきた。
「しかし、何故だね? そんなに私の裸が見たくないのかね?」
その言葉に、俺は思わず本音を叫んでいた。
「当たり前だろ! むさ苦しいおっさんの裸なんて見て……」
―――しまった。
そう言いかけ口を手で抑えた瞬間、『オオカミ少年』の効果、「真実の反転」が発動した。俺の言葉が、力を持ってKINGへと収束する。
「おっさん」という真実が、反転した。
目の前にいたはずの、顔だけ厳つく、だらしなく腹の出た中年男の姿がまばゆい光と共に変質していく。骨格が、肉付きが、その全てが作り替えられ――光が収まった時、そこに立っていたのは腰まで伸びるプラチナブロンドの髪をなびかせた、絶世の美少女だった。
「なっ――」
俺は言葉を失った。状況が理解できない。いや、したくない。美少女と化したKINGは、小悪戯のように微笑み、こてんと首を傾げた。
「……見て、どうしたのだ?」
俺はゴクリと喉を鳴らし、そして、綱引きしていたスキルも、プライドも、戦う理由も、その全てをかなぐり捨てて満面の笑みでこう言った。
「あ、いえ! すごい美しい服、着てますね!」
その瞬間、俺の発言は再び世界に反転させられた。美少女の肢体を隠していたはずの「美しい服」が消え去り、完璧な裸体がそこに現れる。
ああ、と俺は思った。
脳が蕩けるような幸福感と共に、俺の知能指数がゼロに向かっていくのを感じながら。
―――うん、もう負けてもいいや。
<完>
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