第5話 学院で恋の火花、そして迫る影

爆発騒ぎのあと、魔術学院の広間は煙とざわめきでいっぱいだった。

 教師も生徒も俺を囲み、口々に「規格外だ」とか「伝説級だ」とか言ってくる。いやいや、俺はただ触っただけなんだけど。


「ユウ殿、学院に籍を置き、我々の庇護下で学ぶべきです」


 学院長らしき白髪の老人がそう告げた瞬間。


「待ってください! ユウ様は騎士団が全力でお守りします!」リディアが胸を張って宣言する。

「違うわ。王城に住まわせるのが最善よ」エレナがぴしゃりと切り返す。


 さらにミナが俺の腕をぎゅっと握り、涙目で叫んだ。

「ユウは私の幼なじみなんだから、学院に残るの! ぜったい離さない!」


 三人の視線が交錯し、空気がバチバチと火花を散らす。

 俺は両腕を広げて必死に止めに入った。


「ちょ、ちょっと落ち着いて! 俺に決定権とかないから!」


 ……ないよね?


 その日の昼、学院の食堂に移動すると、今度は席取り合戦が始まった。

 俺がトレーを持った瞬間――


「ユウ様、こちらへ!」

「いえ、私の隣です!」

「ちょっと! 幼なじみの特権を忘れないで!」


 三人が同時に手を振り、周囲の生徒がざわつく。

「誰あの人……」「すごいモテてない?」

気づけば視線が集中し、俺は完全に公開処刑状態だった。


 やっとの思いでパンをかじると、今度はデザートの取り合いが始まる。

「ユウ様、これをどうぞ」

「甘いものは体力回復に良いのよ」

「はい、あーん!」


 ……あーんって何!? 俺、羞恥で死ぬ!


 必死に笑ってごまかすけど、心臓はバクバク。

 いや、俺、ただ普通にご飯食べたいだけなんだけど。


 そんなラブコメ混線劇の裏で。


 夜の学院の外、薄暗い路地に黒いローブの集団が集まっていた。

 顔を隠した男が、低い声で囁く。


「――転生者が現れたそうだ」


「ならば、次はユウを狙う」


 重く湿った空気が揺れ、街灯の炎が揺らめく。

 闇の影は、確実に近づいていた。

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