第7話藍色の中で

絵の世界で漂う僕の体は、もはや輪郭を失っていた。

指先は完全に溶け、体全体が藍色に馴染む。世界も僕も、色の波に溶け、どこからが僕でどこからが空かも分からない。

心の奥にあった「描きたい」という意志だけが、微かに震えて残る。

色が揺れるたび、僕の感覚も揺れる。風のような波の中で、意識はぼんやりと漂った。

消えることへの恐怖は、冷たい波に飲まれ、次第に静かに鎮まっていく。

「……僕は、もう、絵の一部なんだ」

理解する言葉も必要なく、ただ色と一体になった世界の中で、僕は静かに、藍色の深みに溶けていった。

現実も時間も、ここには存在しない。ただ藍色だけが、無限に広がる。

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