第20話 消えかけた背中

搭乗ゲート前、エミリーは搭乗券を手に、スーツケースのハンドルを握りしめていた。




「……もう、行かないと」




小さな声でそう言いながら、潤んだ青い瞳をシュンスケに向ける。


シュンスケは無言のまま、彼女の頬に手を添え、そっと額を寄せた。




「……絶対、また会おう」


「……うん……約束」




人々が行き交う空港の出発ロビー。


アナウンスの声、キャリーケースの音、観光客たちの笑い声が交錯する中、二人の小さな世界だけが、別れの痛みで包まれていた。




「……行け」


「やだ」


「……エミリー」


「……っ」




彼女は唇を噛み、たまらず彼の胸に飛び込んだ。




「好き……好き……!」


「俺も……俺もだ……!」




抱きしめる腕に、自然と力がこもる。


人目なんてどうでもよかった。


強く、強く抱きしめ、頬に、額に、唇に、何度も何度もキスを落とした。




「……行かないと、飛行機、間に合わないよ」


「……分かってる」


「……シュンスケ」


「……ああ」




互いに涙を浮かべ、深呼吸をして、彼女はゆっくりとシュンスケから離れた。




「じゃあね……」


「気をつけて……」




エミリーは振り返り、歩き出した。


その後ろ姿を、シュンスケは胸を締め付けられるような思いで見送った。




(ありがとう、ありがとう、エミリー……)




彼女の姿がゲートの向こうに消える瞬間、突然、空港内に響き渡るアナウンスが聞こえた。




「本便は悪天候の影響で遅延が発生しております。搭乗手続きは一時中断となります……」








「……え?」




後ろを振り返ったエミリーと、目が合った。


数秒間の沈黙。


それから、彼女が駆け出してきた。




「シュンスケ――!!」


「エミリー――!!」




二人はもう一度、強く、強く抱きしめ合った。




「……どうしよう、あと何時間、ここにいられるんだろう」


「関係ない、時間なんて……全部、お前と過ごす」


「……うん……!」




(続く)





ーーーーーーーーーーーーーー

【書籍化】

Amazonで販売中👇

https://amzn.to/47d6svo

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る