第10話 笑って、甘えて、寄り添った日
午後は浅草に移動した。
「シュンスケ、ここ、すごい!」
「だろ?浅草はやっぱり日本の観光名所だからな」
雷門の大きな赤い提灯の前で、エミリーは両手を頬に当て、目を輝かせていた。
外国人観光客に混じり、彼女はカメラを手に、夢中で写真を撮り始める。
人混みを避けながら、シュンスケは微笑ましくその姿を見つめ、ふとスマホを取り出した。
(……この角度だと、背景と彼女、両方綺麗に入るな)
パシャッ。
エミリーの笑顔と、背後の雷門。
完璧な一枚だ。
その音に気づき、エミリーがくるりと振り返った。
「シュンスケ、撮った?」
「おう、すごくいい顔してたから」
「見せて!」
彼女は小走りに近づき、シュンスケの腕に絡むようにしてスマホを覗き込む。
その距離の近さに、シュンスケは少しドキドキしながら画面を見せた。
「わぁ……きれい……!」
「いや、お前が綺麗なんだろ」
「……シュンスケ、今の、聞こえたよ?」
「うっ……!」
彼女はくすくす笑い、そっと手を伸ばして彼の頬を軽くつついた。
「私も、シュンスケ撮ってあげる。笑って!」
「いや、俺はいいって……」
「だーめ!ほら、シュンスケ、チーズ!」
抵抗する間もなく、スマホを構えた彼女の笑顔につられて、結局シュンスケは苦笑しながら写真に収まった。
シャッター音が鳴るたび、なんだか胸の奥がくすぐったくなる。
(……こんなに写真を撮られるなんて、何年ぶりだろう)
浅草寺では、おみくじを引いた。
エミリーは見事に大吉を引き当て、子供のように大はしゃぎ。
「見て見て!ダイキチって書いてある!」
「ははっ、すごいな。俺、いつも末吉ばっかだぞ」
「シュンスケも引こう!」
勧められるまま引いてみると、案の定「末吉」。
彼女は笑い転げ、彼の肩に寄り添いながら記念写真を撮った。
その後、仲見世通りを歩き、焼き立ての人形焼や揚げ饅頭をシェアして食べた。
エミリーは一口食べるたびに「甘くて美味しい!」と感激し、シュンスケに「もう一口ちょうだい」とおねだりしてきた。
(こんなに楽しそうな顔を見ると、つい買ってやりたくなるな……)
その後、渋谷に移動した。
スクランブル交差点の賑わいに、エミリーは目を丸くする。
「シュンスケ、これ……すごいね。人がいっぱい」
「そうだな。初めて見ると圧倒されるだろ」
「……あの、有名な犬はどこ?」
「ああ、ハチ公像か。こっちだ」
手を引いて案内すると、彼女は「かわいい!」と声を上げ、ハチ公像の前でぴょんぴょんと跳ねた。
その様子を見て、周囲の観光客も微笑ましそうに彼女を眺めていた。
(……こんなに無邪気に喜んでくれるなんて、連れてきた甲斐があるな)
シュンスケはふっと笑い、自然に彼女の手を取った。
最初、エミリーは驚いたように彼を見上げたが、すぐに嬉しそうに笑い、指を絡め返してきた。
「シュンスケ、手……あったかい」
「……お前の手もな」
指先のぬくもりが心地よく、胸の奥にじんわりと広がっていく。
人混みの中でも、今は二人だけの世界に包まれているようだった。
センター街では、タピオカドリンクを飲み歩き、プリクラに挑戦した。
「シュンスケ、目、大きくなる!」
「……いや、俺、これ苦手なんだけど……」
「だーめ!一緒に撮ろう!」
彼女の笑顔に押し切られ、結局二人並んでプリクラのフレームに収まった。
出来上がったシールを見て、エミリーは何度も笑い、「大事にするね」とスマホの裏にしまっていた。
夕暮れが近づく頃、二人は代々木公園でベンチに腰掛け、ホットドリンクを手に休憩していた。
エミリーは疲れたように彼の肩に寄りかかり、目を細めて微笑む。
「シュンスケ……今日、一日、ありがとう」
「いや、俺の方こそ。お前が楽しそうにしてくれて、嬉しかった」
「……私ね、夢みたいな一日だった」
彼女はそっと、彼の手を握った。
夕焼けに染まる空、秋の冷たい空気、繋がる指先のぬくもり――全てが静かで、優しい時間だった。
「シュンスケ……もうちょっとだけ、ここにいていい?」
「……もちろん」
彼女は彼の胸元に顔を埋め、深く息を吐いた。
その鼓動が、彼女の耳に伝わる。
シュンスケも、そっと彼女の背中を撫で、瞳を閉じた。
(この瞬間が……ずっと続けばいいのに)
二人はそう思いながら、夕暮れの公園で静かに寄り添い続けた。
(続く)
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