第11話 膝枕
「シュンスケ、ちょっと疲れた……」
カフェのテラス席に座り、エミリーは小さくため息をついた。
朝から歩き回って、浅草、渋谷、鎌倉と観光を詰め込んだ。もちろん楽しかった。
けれど慣れない土地、慣れない言葉、たくさんの人――さすがに少し体力を使いすぎたのだろう。
「そっか……じゃあ、しばらくここで休憩しよう」
「うん……ありがと、シュンスケ……」
シュンスケは彼女の前にカフェラテを置き、自分の席に座った。
目の前のエミリーは、観光用の薄いワンピースに日差し除けの帽子を乗せ、頬を少し赤らめている。
金髪が日光を透かして輝き、まるで雑誌の表紙みたいだ。
「写真……撮っとく?」
「え?」
「いや……今すごく絵になるから……」
言った瞬間、我ながら恥ずかしくなり、思わず目をそらした。
けれどエミリーはにっこり笑い、そっと顔を寄せてくる。
「いいよ、撮って?シュンスケだけ、特別」
「……お、おう」
スマホを構え、シャッターを押す。
パシャッ。画面には、照れたように笑うエミリーの横顔が収まった。
「うん、かわいい」
「……聞こえたよ?」
「うっ……!」
彼女は小さく笑い、カフェラテを一口飲むと、膝を抱えて体を丸めた。
そしておずおずとした様子で、テーブル越しに視線を投げかけてくる。
「……シュンスケ……お願いがあるの」
「……な、なに?」
「膝枕……してくれる?」
「えっ……!?」
思わず大きな声が出て、周囲の客がこちらをちらっと見る。
エミリーは恥ずかしそうに微笑みながら、手を合わせて小さくお願いポーズをしてきた。
「少し……眠りたいの……でも、床は硬いし……」
「いや、ここカフェだぞ……」
「わかってる……でも、シュンスケの膝、きっと気持ちいい」
(な、なんだその甘え方……ずるいだろ……!)
シュンスケは周囲を確認し、意を決してソファ席の端に移動した。
「……いいよ。ここなら人目も少ないし」
「やったぁ!」
エミリーは嬉しそうに笑い、するりと彼の膝枕に頭を乗せてきた。
(うわ、うわ……やばい……)
柔らかい髪の感触が太ももに伝わり、耳元で小さな吐息が聞こえる。
「シュンスケ……優しい匂い……落ち着く……」
「そ、そうか……」
彼女の指がそっと彼の手に触れ、指先を絡めてくる。
「……ねえ、こうしてると、恋人みたいだね」
「……恋人、じゃだめか?」「え?」
エミリーは驚いたように見上げ、そして小さく笑った。
「シュンスケ……告白?」
「……かもしれない」
彼女は照れくさそうに顔を赤らめ、そっと指先をきゅっと握った。
「私……シュンスケ、すごく好き……」
「俺もだよ、エミリー……」
二人はそっと見つめ合い、そして彼女は目を閉じた。
「……少しだけ、寝るね」
「……ああ」
シュンスケは彼女の髪をそっと撫で、膝に預けられた重みを感じた。
小さな寝息、日差しにきらめく金髪、指先のぬくもり――胸の奥に、ゆっくりと甘い幸せが広がっていった。
(……こんな時間が、ずっと続けばいいのに)
彼は心の中でまたつぶやき、穏やかな微笑みを浮かべた。
このひとときが、彼らの間の距離をさらに近づけていくのだった。
(続く)
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