第9話 君をずっと見ていたい
「シュンスケ!見て、これ!」
朝食を終え、片付けを済ませると、エミリーはスマホを片手にソファでくるくる回りながら笑っていた。
画面にはSNSの投稿が表示されていて、色とりどりの鳥居がずらりと並んだ風景や、竹林の小道、抹茶パフェの写真などが次々とスクロールされていく。
「ここ、行きたいの。シュンスケ、一緒に行ってくれる?」
「ふむ……伏見稲荷大社か?」
「そう!それそれ!でも、遠い?」
「京都だからな……日帰りは厳しいけど、新幹線使えばなんとか。けど、他にも行きたいとこある?」
エミリーは少し考え込み、次の写真を見せてきた。
「これ、鎌倉?」
「ああ、鎌倉の大仏と竹林か。だったら、今日行けるな」
「やったー!」
彼女は飛び跳ねるように笑い、シュンスケに抱きついてきた。
「シュンスケ、ほんとに優しい!」
「いや、まぁ……せっかく日本に来たんだし、楽しませてあげたいしな」
「うれしい……!」
彼女はほっぺたにそっとキスをして、スマホの画面を指差した。
「竹林、歩きたい。あと……抹茶、飲みたい。着物も着れる?」
「着物レンタル、あるぞ。外国人向けのプランも。予約入れとくか?」
「うん!うん!」
エミリーはキラキラと目を輝かせ、もう完全に観光モードに入っている。
そんな彼女を見て、シュンスケは思わず笑ってしまった。
(ほんと、エネルギッシュな子だな……)
支度を整える間、エミリーは嬉しそうに持参の服を広げ、スマホのカメラでコーディネートを確認していた。
「シュンスケ、どれがいいと思う?」
「え?俺が選ぶのか?」
「もちろん!」
彼女は白いブラウスと、少しレトロな花柄のスカート、そしてデニムのワンピースを並べた。
「ん~……今日は鎌倉だし、花柄スカートが雰囲気合いそうだな」
「ほんと!?じゃあ、これにする!」
嬉しそうにスカートを抱きしめ、洗面所へ駆け込んでいくエミリー。
シュンスケはその背中を見送り、少し頬を緩めた。
(たった二日間で、こんなに打ち解けるとはな……)
彼は心の奥で小さく呟き、スマホを手に取り、レンタル着物店の予約を入れた。
外国語対応がある店舗を選び、午後からの枠を確保。
「よし……準備完了っと」
すると、エミリーが鏡の前からひょこっと顔を出し、嬉しそうに笑った。
「シュンスケ、どう?」
「おお……似合ってる」
「ほんと!?」
「ほんとに。なんか……お姫様みたいだな」
「えへへ……ありがとう」
エミリーはそっと寄ってきて、シュンスケの胸元に手を置いた。
「今日、一緒に写真、たくさん撮ろうね」
「うん。……俺も記念に残したいから」
「うれしい……!」
彼女は嬉しそうに抱きつき、笑顔のまま「行こう!」と手を引いた。
シュンスケは自然と笑みをこぼし、その手を握り返した。
鎌倉行きの電車は、午前の陽射しに包まれていた。
エミリーは窓の外を見つめ、流れる景色に目を輝かせている。
「シュンスケ、見て、山!海も見える!」
「そうだな。鎌倉は山と海の街だから」
「すてき……!日本って、ほんとに景色が豊かなんだね」
彼女の言葉を聞き、シュンスケは少し誇らしい気持ちになった。
今まで何度も通った場所なのに、隣に彼女がいるだけで特別に見える。
(……やっぱり、旅行は誰と行くかだな)
エミリーは途中、スマホでシュンスケの写真を撮り、彼にカメラを向け、笑顔をねだった。
「シュンスケ、笑って!」
「いや、恥ずかしいって……!」
「でも、いい思い出、作りたい」
「……わかったよ」
彼は苦笑し、結局何枚も写真を撮られる羽目になった。
けれど、エミリーの無邪気な笑顔を見ると、どうしても嫌とは言えなかった。
鎌倉駅に到着すると、さっそく着物レンタル店へ向かった。
スタッフは手際よく案内し、英語で説明をしてくれる。
エミリーは目を輝かせながら、いくつもの柄を見比べ、最終的に薄い水色の桜模様を選んだ。
「シュンスケ、どう?似合ってる?」
「似合いすぎて……正直、ドキッとした」
「ふふっ、うれしい」
彼女は桜柄の着物を身にまとい、髪も簡単にまとめてもらい、すっかり日本の町娘のような雰囲気に変わっていた。
シュンスケも、シンプルな紺色の着物を着付けてもらい、二人並んで鏡の前に立つと、なんだか照れくさくなる。
「シュンスケ……一緒に、写真、撮ろう?」
「……おう」
二人は手を取り合い、カメラに向かって微笑み合った。
シャッター音が響くたび、心に少しずつ新しい記憶が刻まれていくようだった。
(この時間が……ずっと続けばいいのに)
シュンスケは、そんなことを本気で思っていた。
(続く)
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