第19話
≪――野球界の貴公子、近江彗選手でした!ありがとうございました!≫
流れ作業のようなインタビュー、兄に関する話、恋愛観、プライベートへの疑問…野球に関する質問など1割にも満たない空っぽな仕事を終え、地下駐車場へ急ぐ。
今のところ本日の仕事が全て終わった午後、自ら運転してきた相棒であるバイクを横目で確認しながら通り過ぎた。
辺りに人がいないことを確認し、滅多に車の止まらない隅の隅の隅、遠くから見ればどの角度からでも死角になる場所に、素早く足を運ぶ。
「…おつかれさま、ハヤト。」
「…うん。」
背中をコンクリートの壁に預け小さく屈むマリの隣に、同じように腰を下ろした。
深く息を吐きながら、華奢な肩にぴたりと凭れる。避けることもなく、優しく頭を寄せてくれた相手が、小さく微笑んだのが分かった。
「…どうした?」
「別に…ただ、同じ局にマリが居るなら、会っといてやろうかなって思っただけ」
「とんでもなく上からですねハヤトくん。」
可笑しそうに身体を揺らしたマリを愛おしく感じながらも、薄く芽生える喉の奥、異物が詰められたような違和感に、手のひらを首に添えてみる。
どうして、なのだろう。
ここ最近、息をするのが、酷く難しい瞬間が、ある。
幾度となく、襲ってくるのだ。
今更、と笑われそうな症状を、誰にも言うつもりはないけれど。
マリと触れあっている瞬間だけ和らぐ、この、苦しさを。
「「――!!」」
久しぶりに、心の底から気を抜ける時間を満喫しようと、瞼を下ろした。
刹那に届いた通知音に、反応することもせずに。
「…ハヤト。」
緊張からか、いきなり固まったマリが“指令”を確認しようと動かしたんだろう腕を感覚で掴み、阻止する。
短く戒めるような冷たい声にも、従うことはせずに。
「大丈夫。順番的に、俺だから。」
「…ハヤト、」
「5分だけ、お願い。マリ。」
「……………うん。いいよ。」
「……………」
「……………」
「……………」
諦めたように力を抜いた相手をいいことに、手を繋いだ。複雑に指を絡めて、寄せてくれている小さな頭に、頬を寄せる。
「…なあ、マリ。」
「…ん?」
「…俺らが生き続ける意味は、あるのかな。」
「……………」
「今は無くても、未来では、意味を持ってんのかな。」
「……………さあ。興味ない。」
「…マリらしい、返しだな。」
2人並んで、同じ方向に視線を伸ばしていても、そっと落ちている涙の存在を、知っていた。
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