第13話

ふぅ、と音のない深い息を吐き出す。

踵を返して、教室へと戻ることにした。





40近くの机とイスが順列しているそこは、いつもよりはるかに静かで。厳かな気がして。





扉を締め切り、教壇の隣に腰を下ろす。


ついでにぴっちり纏めたみつあみを外して、簡単に手ぐしで髪を抑えた。





両眼ともに2.0の視力には必要ない伊達メガネを床にほっぽり出し、天井を仰ぐ。


軽いウェーブがついた黒髪が、さらりと揺れた。








春湖の所へ戻ろうかな。

心配かけるだけかな。


でも帰っても、もっと不審に心配させるだけだしなあ。








きつくきつく、瞼を落とす。





この先の行動を考えて悩んでいた最中、誰かの駆け足と一緒に扉が開かれた。


ゆっくり、音のした方向へと顔を動かす。








「………………」


「………………」


「「………………」」





今日も今日とて元気なオレンジブラウンに染まっている髪色の持ち主は、あんぐりとマンガのよう口を開けた。


そうしてお互いに、無言のやり取りが重なる。








「……清子?」


「いや、人違いですね。」


「いやいやいや、声もだし脹脛までのスカート丈はいてんの清子だけだろ。」


「sorry. l can't speaking Japanese.」


「さっきばりばり日本語喋ってたわ。」





やばい。

失敗した。


ここ1番にやらかした。








段々と冷静さを取り戻していく鈴木は、段々と不安定化さに覆われていく私の正面で胡座をかいた。


ちらり、と鈴木の席に視線を伸ばせば堂々と体育館シューズが忘れられている。


ジャージ姿の彼はどうやら、それを取りに戻ってきたらしい。


なんたる予想外。馬鹿野郎。

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