第10話

お水とジンジャーエールを手に足早に戻る。


変わらない場所にいた鈴木に、とても安心してしまった。







さっきよりも苦しそうに呻き、項垂れているというのに。








「鈴木、大丈夫?」


「やべえ。また波がきた。」


「吐く?」


「いや。もうない。」





何がないのか分かるような分からないような。


場違いに笑いそうになってしまう頓珍漢な答えを流して飲み物を渡す。








受け取り喉へと水分を運べば多少すっきりしたのか、鈴木はきちんとベンチに座り直した。





たくさんの人が行き交う賑やかさを前に感じる、止まったよう時。








「……三半規管弱い男とかダサいよな。」





鈴木と並んで、何も考えないように浸っていた私を呼び戻した現実の声にはっとなる。


そして、随分と落ち込んだ素振りの相手に顔を向けた。








「鈴木のダサい基準が分かんない」


「恰好良くはないだろ」


「けど、広い世界探せばいくらでもいるよ、そんな人。気にしなさんな。」


「婆さんか。」





そっと笑った鈴木につられて、私も笑えた。

笑えれた。








遠くの方で、


「男のくせに情けな、情けな!小次郎、情けな!」

「3回も言うなよ、3回!」


なんて言い争いう男女を、ジェットコースターの出口前で見つける。





派手な美人さんに笑われている端正な顔立ちの男の子の顔色やポーズは、さっきの鈴木にそっくりだった。








「ほら、あの人もだよたぶん。」


「清子の慰め的確かよ。」





まだ少し顔色の優れない鈴木を確認して、暫く悩む。


悩んだ末に、結局実行するため綺麗に膝を揃えて座り直した。


ついでに羽織っていたグレーのパーカーも脱ぐ。







急な私の行動に?を浮かべる鈴木に、ぽんぽん、っと自分の太ももを黒スキニーの上から叩き示した。








「横になる?嫌じゃなかったら。」


「………………はい?」


「膝枕。」


「――――――っ!」

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