第8話

それにしても。

無理なら無理ってはっきり言えばいいのに鈴木も。



…………私が言えることでもないけれど。








久しぶりに弾ける準備として履いてきたスリッポン。


ベンチの前で明るい地面を、つま先で軽く蹴ってみる。








「じゃあ清子、後は頼んだ。」


「俺たち、遊びたい盛りだから。」


「はい?」





呑気にひとり遊びに近いそれを繰り返していた所、知らぬ間に進んでいた話に戸惑った。


勢いよく上げた顔の先には、してやったり感たっぷりの笑顔で去っていく春湖と佐藤の姿。





反論する間もなく、2人は人混みの中へと消えてしまう。








ふぅ。と、はっきりとした理由は分からないため息が出た。





「清子……?あいつらは……?」





タイミング良くか悪くか、帰ってきた鈴木に振り返る。


普段強気にしか見えない彼の顔は、見るからに真っ青で。








まあいっか、と自身にこっそり言い聞かせつつ鈴木の両肩を掴んだ。


そしてすとん。と、ベンチに座らせる。








「どこか行った」


「は?」


「まあいーじゃん。それより平気?飲み物いる?」


「いや……暫く座ってるわ。」


「うん。」





素直に従う鈴木は背もたれを存分に駆使し、空を仰ぐよう手のひらで顔を覆った。


珍しく弱っている様がなんだかとても貴重に思えて、隣にお邪魔する。





鈴木は指の隙間から僅かにこっちを覗いてきて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る