第6話

だって、もう、がんばる理由が、ないじゃないか。

あたしが“東京”にいる意味は、ないじゃないか。





壁にこつん、と仰向けに頭を背中を預け解除した正座。



投げ出した足をぶらぶら動かしていれば、ふと、受話器の重みがなくなった。



「まあまあ。和美(かずみ)よ。いいじゃないか。」



瞼を開き見上げれば、じいちゃがいる。


所有する広い土地……そのすべてを畑にしているため農作業中だったのか、ラフなつなぎを着て薄い水色で染められたタオルを首に巻く相手が。




力強い、理解者が。





無言で視線を飛ばし続けていれば、『大丈夫じゃよ』と、あたしの馬鹿丸出しの頭を、そっと撫でてくれた。




『お父さん!そうは言ってもね、』


「何でじゃよ。聞けば、しずかは高校を辞めてずっと働いてたらしいの。東京でその場を失って、今は行くべき学校もないのなら、こっちで暮してもいいじゃないか。」


『でも……迷惑じゃないの?』


「迷惑なことがあるか。わしはひとりのんびり暮しておる。田舎の若いのに助けてもらいながらだけどのお。そこに、孫ひとり増えるぐらい、大歓迎じゃよ。」


「(じいちゃん……)」



あたしの年に、60年プラスした年月を生きてきたじいちゃんは、温かい陽だまりのような笑顔でにこにこ笑う。



積み重ねてきた時間の証である顔の皺を、たくさん寄せ集めながら。

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