第34話

「けど…」


「…ん?」


「さっきのは、間違いかも」


「…?」


「晟に『出来る事あるか』って聞かれて『ない』って言った」


「…ああ…」


「『ない』って言うか…『もう、ない』」


「………」


「今まで、たくさん、してくれたから。」



地面に足が縫いついたように動けず、黙り込む俺のすぐ正面まで、亜依子が近付いてくる。



そのまま、ふふ、と、柔らかく、笑った。





「毎週毎週つきあってくれて、初対面のあたしの何気ない話を覚えてて、興味もって共有してくれて、あたしのことを考えて静かな線香花火を選んでくれて…あれは、嬉しかったよ。我慢できなくて、泣いちゃった。幸せな気持ちになった。面倒で大嫌いだった月曜日が、ちょっと好きになれた。」


「………」


「あたしの不思議なとこも指摘しないで、隣にいてくれた。それだけで、十分だよ、晟。」


「………」



背伸びをした亜依子が、そっと俺の首に手を回し、優しく抱きついてくる。俺も、その背中に、ゆっくり手を回した。



亜依子の優しい声は、止まらない。





「“あかるくりっぱなさま”“あかるくかがやく”」


「…いきなり何だよ。それ。」


「晟の漢字の意味。調べてみたんだ。太陽みたいじゃない?」


「………」


「晟がとなりにいてくれただけで、明るく照らしてくれてるみたいだった。…救われたよ。」


「…っ…」


「ありがとう。晟。大好き。」



頬を通った、一粒だけの熱い“何か”を誤魔化すために、亜依子の肩に、顔を埋める。




情けない俺の背中を、亜依子がそっと、擦り続けていた。

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