第22話

「…学校、楽しいのか」


「うん。学校すき。パスポートみたいなもんじゃん。」


「パスポート?」




亜依子の『学校すき』と言う気持ちに安心感を抱いていた。



「うーうん。なんでもない。詞の綾。」



だから、俺は、また。深く、考えない。




自分が所属する高校を【パスポート】と比喩する深意を。





「てかさ、晟。これ開けて?」



スマホをポケットに仕舞う亜依子から手渡されたのは、緑茶の缶。深緑。落ち着いた、色。




「お父さんか俺は。同じこと前に言った気するけど」


「いーじゃん。パパ。開けてよ。あたし握力7なんだから」


「よっわ。細すぎんだよ大体。ちゃんと食べてんのか」


「うわあ。パパ鬱陶しー。」


「…反抗期娘。てめえで闘って握力でプルタブに勝て。」




やーやー、阿呆っぽい掛け合いをする2人は、


この曜日、この時間、この場所、に。いつもいる。







―――――……




3分後、結局粘りに粘られる頼みに根気負けした俺がプルタブを開けた。プシュ、と小さな響きの爽快音が鳴る。



缶は、俺が最初手渡したときに比べ冷たさが無くなっていた。





冷え冷えとしたあの温度は、


更級亜依子の手のひらへと移り、



そして、すぐに、消えたんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る