第11話

――――――――――…




公園内にある噴水状に水が出る手洗い場の所へ移動した。



すぐ近くにはごみ捨て場といくつかの自動販売機が並んでる。




「こういうの、彼女とするもんじゃないの?」


「1週間前別れたからそんなのいないし」


「あらら…。それはそれは失礼しました。」


「なんだそれ。」




大して申し訳なさそうでもないのに声には立派な気遣いが滲んでいる謝罪に笑いつつ、しゃがみこみ束になっている細い線香花火を1本ずつに解していると、



「てかさ?なんで学期終わりに線香花火なの」



隣に更級亜依子もしゃがみ、同じように作業してくれている。




「さー…?」


「さー…って…」


「なんとなく?お疲れ様の儀式…はねえか。分かんね。」




全て個々に分かれたその内のひとつを、



「賑やかな花火買おうとしたけど…更級亜依子センパイはうるさいの嫌いそうだな、と思いまして。これにした次第ですよ」



相手の顔を見ないまま、手渡した。




なんとなく気恥ずかしい為敢えてふざけた口調で伝えるらしくない自分に笑える。



けれど、不思議と、この時間は緊張するから。



ずっとここを離れたくないと思うけれど。



それと同時に、いつもいつも緊張していた。



それがどうしてか、も。俺自身、分からない。





自分の手のひらから花火を持っていた感覚が無くなったことで更級亜依子が受け取ったんだと分かり、下に置いてあるチャッカマンを掴んだ。




「……………」


「……………」



そのまま、自分もひとつ線香花火を手に持つ。




『火、つけるか』と、何故か無言が続くこの空間を打破しようと、隣に顔を向けたけれど。




「…なんで。」



予想もしてなかった状況に、固まった。

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