第10話

夏休みに入る直前、1学期最後の月曜日。




「聴いたよ。あれ。」


「あれ…ああ、曲?スーパーボール事情?」


「それ」




また電車に乗り、柳の木の下へと来ていた。




「へー…。そっか。」


「家にあったから。兄貴に借りた」


「兄貴、か。確かに晟、弟っぽいね。」




隣同士ベンチに腰掛け、納得したように頷く更級亜依子と会うのは、今日で3回目。





やっぱり、今日も今日とて変わらず、だった。



夜の色も月の輝きも公園のオブジェ達も大きな柳も。


更級亜依子の、服装も。



ずっと、相変わらず。





「なあ。」


「なに」


「あんた、どこの高校?」


「え?ああ…」




ただ、顔を正面に向けたまま自身が通う学校名を呟くそいつの身体は、初めて会ったときよりも先週会ったときよりも小さくなった気がする。気がする、だけかもしれない。




「進学校じゃん。」


「まあね。あたし頭いいから。」


「謙遜しろよ。」




冗談めかして笑う更級亜依子のその様に苦笑しながら俯き、ここに来る前に寄ってきたコンビニの袋をがさり、と開けた。



隣から、視線を向けているのが分かる。




「そこも、今週で終わりだろ?」


「終わりって…あ、そうだね。1学期のことか」


「ん。てことで、買ってきた。」




顔を上げ、軽く持ち上げたその袋の中身を見せた。入っているものを認識した更級亜依子の眉が下がる。困ったように。




「意外とロマンチストなことするね。晟は。」


「うるせーよ。」




ここにあるのは、線香花火とチャッカマン。

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