身を滅ぼす片思い

第7話

⚾︎ ⚾︎ ⚾︎ ⚾︎ ⚾︎









学校のバイク置き場。その内のひとつに鍵を挿し回した男の背中を見つめる。


結局、勇気が出ないまま放課後になってしまった。





一旦、男から視線を逸らし壁に背中を当てる。どうしよう……このままじゃ帰ってしまう……。








空を仰ぐよう、頭の天辺をも壁にくっつけた。そのまま思考の世界だけで今後の動向を探っていたから、俺は全く気付けない。








「警察につき出そうか?」


「…………滅相もございません。」





油断していた一瞬、その隙をついてやってきた男に、遠慮ない力で首根っこを掴まれる。





バレてた?バレてた?

昼休みからの尾行、勘付かれてた?


心の底からごめんなさい。もうしません。








苦しい首元に両手のひらを当てる。恐る恐る男の顔を確認すれば、これ以上ないほど眉間に皺が寄っていた。ははは。そんな険しい顔してたらイケメンが台無しですよ。……なんて、ツッこめる筈もない煽ては横に置いといて。


そもそも、やっすいちっぽけなゴマスリが通じる男でもなさそう。うん。絶対に違う。








「是澤せんぱい、あのですね、」


「つうか誰お前」





腹を括って、満面の笑顔で向き合う。


またまた、ご冗談が過ぎますって先輩。でもたぶん、それ本気で言ってますよね。がちで忘れられてますよね。


俺、結構インパクトがある見た目してると思うんですけど。








「……去年の冬、ウエコー正門前、告白、先輩、バイク、連れ去る。」


「……ああ、あいつか。へえ、同じ高校だったんだ」


「さっきから容赦ないですね」





先輩とのつながり。そのキーワードを口にしていく。


そう、何を隠そう。

この人は、俺の初恋相手の弟で。

紛れもなく、告白現場から初恋相手を連れ去った男。








是澤芽衣、先輩。








俺の初恋相手含めた“コレサワ3きょうだい”は、この街でのちょっとした有名人だったりする。その理由は、今は関係ないから、これも横に置いとくとしよう。








「俺、どうしても是澤せんぱいに相談のってもらいたいことがあるんすけど……、」





ゔゔん、と咳払いをひとつ落とす。


本題を切り出せば、やっと先輩の拘束(ほぼ絞め技だったけど)から解放された。





ちょっとした沈黙が、2人を包む。そして何を思ったのか、先輩はスタスタとバイクに戻り跨ってヘルメットまでもを装置し始めた。



え、まさかのガン無視???


慌てて、唸っているバイクの側まで駆け寄る。








「いいよ?」


「え!?」





まじっすか!?

先輩、意外といい人なんすか!?





内心諦めていた良い返事が聞けて、単純な俺の心は踊り出した────けれど。








「俺の後、着いてこれたらな?」


「あ、と……?」





……まじっすか?

冗談……ですよね?先輩?





聞き間違いかと耳を疑う。けれど、俺の耳は至って健康体だ。毎年の聴力検査も難なくクリアだ。



と、いうことは……。








悪い予感は的中し、先輩はそのまま振り返りもせずアクセルふかして去っていく。


残ったのは微かな土埃と、ポカーンと佇む俺。








「っちくしょうおんどりゃあああああ!野球部で鍛えた脚力なめんなああああ!」





でも、そこで諦められるほど俺は人間できていない。むしろ負けず嫌いだし、なにより。


紗莉さんとの今後がかかっているかもしれないから。

それだけは、逃す訳にはいかないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る