第9話
「つまんねー……ああ!つまんねえ!」
「……うるさい。近所迷惑。」
「今さっき叫んでた大人に言われたくねえよ」
「それは、そう、だけど……」
急に張り詰めた空気のみになっていくこの場所に、冷たく我儘な言葉が現れる。
身体だけではなくその他、目には見えない別の部分まである意味大きく成長してしまったらしい相手に背を向けたまま、玄関から顔を逸らせないままで、いた。
「…………ねえ、星耶くん、」
「あん?」
私のことどんだけ嫌いなんですかキミ、と詰め寄りたくなる対応を繰り返す星耶くん。とうとう苦笑がこぼれる。
分かるけれど、全ての会話はじめ短い反抗にするのは辞めてくれないかな、と思った。切実に。
そういうの、意外と気にして堪えるタイプだったりするんだよ、と。
伝える権利も立場も、私は、持ち合わせていないけれど。
「…………用事、あるんでしょ?」
「まあね」
過去に見た映像が、次々と思考の片隅を流れていく。
きつく瞼を閉じ合わせる中で、耳元に届く低い声に驚き振り向いたときにはもう、手遅れ、で。
知らぬ間に側までやって来ていた星耶くんに、気遣いなど皆無な強さで二の腕を掴まれ、乱暴にベットへと投げられてしまった。
勢いよく、跳ねるように重さを重ねられたそこはバウンドし、鈍く軋む。
なんとか姿勢を正し、真ん中で座り込んだ。
フローリングにしっかりと足を縫いつけ、目の前で屈んだ星耶くんの瞳は、真っ黒で無機質な、悲しいもの。
「ちょっと、人生相談に乗ってもらおうかと思って」
「な、に……」
「なんかねー、俺の兄貴、帰ってくるみたいよ?」
「………………」
「離婚、すんだって」
「……り、こん?」
「うん。離婚。今この世の中で3人に1人はしてる、離婚。珍しくもなんともない、別れ。」
「………なんで…だって、それじゃ、」
「だからさ、そんなんでも一応は歳上のあんたに、相談したくて。なんなら、俺の元、家庭教師でもあるし?」
「………だって、そんな、の…、」
告げられた衝撃に、息をのむ。
取り繕う余裕もなく動揺し、視線は泳いでしまった。
そんな、情けなく狼狽える大人を、鼻であしらって。
「こういうときって、弟として、兄貴になんて声かけてやればいいのかな?」
「……星耶く、」
「だから言ったのに、って?」
「………………」
「あんたに裏切られたからって、テキトーな女と結婚なんかするから、そんなことになったんじゃねーの、って?」
「………………」
「俺、そう言ってやればいいのかな?センセイ?」
綺麗に微笑む彼に、一体、何が出来たというのだろう。
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