優雨と星耶

第8話

そして突然、やって来る。





「ちーす。邪魔するぞー。」


「……は?」


「……ごめん、優雨さん。」


「太陽、なに謝っちゃってんの?こんなババアに下手に出ることねえって!」


「……お2人とも、今すぐお帰りいただけますでしょうか?」


「やだよ」


「……星耶。」





優絵と家を後にし自分の仕事を励み、それをも終えた早朝。


燃えるゴミの日というこの辺りに定められた曜日に従い、両手に白色で染まる大きな袋を持ち玄関を開けたその隙に、やって来られた。





堂々と不法侵入してくる長身とアイドル顔負けな困り顔を披露してくる長身を、ゴミ袋で思いっきりしばき倒したい衝動をなんとか抑え冷静に懇願する。



それでも、我が物顔で勢いよくベットに腰を落としながら遠慮なく中指を突き立て挑発してくる男子高校生に殺意が芽生えてしまった。





それは、太陽くんに名前を呼ばれただけなのに何故か攻撃力を落とす、という理不尽な反応により助長する。








「学校は?今日、木曜日じゃなかった?」


「あん?開校記念日で休みだよ、お!ば!さ!ん!」


「(………………💢)」


「なんだその悟り開いた目は……やるか?おうやったるか?」


「星耶!」





加えて思い出した〝平日〟という事実に首を傾げれば、リズム良く侮辱してくるそれに応え、心の中で報復を試みた。


玄関にゴミ袋を放置しリビングへ迎えば、変わらない体勢のまま眉間の皺を濃くする相手を、厳しい声で太陽くんが叱咜する。





それにより、ようやくバツ悪そうに口を窄め(比較的)大人しくなってくれた相手をいいことに、深いため息を落とした。








「……なに?なにか、私に用事?」


「べっつにー……てか太陽、部活行かなくていいわけ?顧問に殺されるよ?」


「大丈夫」


「え、太陽くん部活あるの?」





視線を合わすことはできないまま、小さく訊ねる。


重複するよう弱々しく届いた返事に、ベット横に立っている制服姿へと顔を向けた。





指摘を受けた通り、確かに彼は学校規定の服装をしている。


相も変わらず、規則正しい着こなしだった。








「……だって、星耶が優雨さん家に行くとか言うから」


「言うから……なに?」


「だから、別になんもしねえって。そんなわざわざ見張りにこなくても!」


「それもあるけどね、狡いじゃん。」


「狡いってなんだよ」





腕を組み、拗ねた様子で眉を下げる太陽くんを見つめる。


太陽くんの斜め前で足を組んだ星耶くんは、態度に似合わず、高校生にしては大人っぽい私服をこれまた着こなしていた。








「星耶だけ優雨さんといっしょに過ごすとか、ずるい。」


「「………………」」


「俺だって、そんな頻繁に会えるわけじゃないのに……」


「そ、「っだあああああ!もう部活行って部活!さよなら!」





なんて、逃避のような感想を思っていれば。


唐突に与えられる甘い声、甘すぎる素直な気持ちを暴露されてしまった。



むず痒さと気恥ずかしさと色々なものが混じり合わさり爆発し、思わず叫ぶ。








すると、珍しく駄々をこねることもなく「はいはい。あ、優雨さん。これゴミ出しとくね?」と、見事な働きと共に部屋を後にする太陽くんのスマートな行動に、呆気に取られながら視線だけで見送ることとなってしまった。

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