レンさんは残酷
第33話
🎸
レンさんとのあやふやな鉄板焼き帰りから、1週間。
やっぱり少なくなったままの連絡頻度に落ち込みつつ、局の廊下を歩く。ここ数日でストレスのまま食べてしまったスイーツの代償、弛んできた気がするお腹を引っ込めた。
今日は番宣のために出させていただくいくつかのバラエティ番組、その打ち合わせがメインの仕事だけれど。念のために。
どう考えてもぽっこりしてる胸から下を擦りながら、妊婦さんって一体どんな気持ちになるんだろう。
なんて、方向性めちゃくちゃ思考のままに歩いていた。
「あ、」
「わ!お久しぶりですね!」
「有栖川さん……、」
そんな折、前からやって来た見覚えある長身とすれ違う。
意識せずとも、明るい声で楽しい心持ちで話しかけていた。
それはたぶん、ちょうどレンさんとつきあい始めた頃(幸せでノリに乗ってた絶頂期)に出演した作品の相手役だったこと、と。
別作品でソウさんとも共演済みだったり。
モデル業から俳優に転身した経緯だったり。
自分と相手との間にあるいくつかの好ましい共通点が理由となっていた。
どこまでも自分本位な私は、良いのか悪いのか。
よく、分からないけれど。
「あの、有栖川さん、」
「はい!」
「いきなりで驚くかもしれないんだけど……」
「はい……?」
最近ようやく、私には軽い妄想癖があるという事態を把握できはじめて。改善を試みていた矢先にさっそく有栖川ワールドに浸っていた癖の強さにうんざりしつつ。
そんなマイペースな私とは打って変わって、緊張した面持ちの相手を見上げれば。
「今夜、空いてる?」
「あの、」
「実はずっと、また会いたいと思ってて……」
隠しきれていない相手の照れは、こっちまで便乗しそうになるほど大きくて。
珍しく、本気で困ってしまった。
そして、自惚れじゃないと自負できる確信が芽生える。
「えっと……じゃあ、連絡まってるから。」
どうやらこの人は。
役としてとはまた別に。
現実の私に対して、好意を抱いてくれていたらしい。
返事はおろか、私の反応すら確認できない様子の相手は、そそくさと踵を返し来た道を去って行ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます