第34話

あの人、わざわざ私を発見して、来てくれてたんだ。

仕事中、だっただろうに。







細長い廊下。

ひとりぼっちの孤独な真っ直ぐの途中で、立ち竦む。





どうしたものか……と悩んでいた時間や周りの事態を把握していないほど、真剣に考えていた私の背後。








「なーこーちゃんっ」


「わっ、」


「見てたよ~ひゅうひゅうっ!等々勝負に出たんだねえ!」


「……ソウさん?」


「いや、ずっと相談されてたから。有須川さんに会いたい~会いたい~って。」





忍び寄ってきていた2人の姿に、全身はさらに固まっていた。




人事だと割り切って楽しむソウさんの隣。


久しぶりに、明るい場所で向き合えてる気がする。





たったのそれだけで、心が踊る私は。

手遅れなレベルで、中毒者だった。








「どうするレン?強敵現る、じゃん?」





他人事だと割り切りこの場を唯一楽しむことが出来ているソウさん。


その隣にいる、レンさんの。











それでも、ほんの少しも変わずないつものレンさん。

冷静な表情に、浮上した心は一気に堕ちていく。










「…………レンさん、私、誘われてました。」


「……知ってる。見てたよ。」


「…………なにも、言わないの?」





そんな心情でも逸らさず強情に、レンさんを見つめることが出来たのは。


私とレンさんが積み重ねてきた思い出たちのお陰だった。





確かに、重ねてきた時間。

過ごしてきた、2人の歴史。








「別に。」


「………………」


「なこが、決めることだよ。」





そんな自信を。


私を繋ぎとめていたレンさんへの恋情を。

私を支えていたレンさんへの愛情を。


健気な想いを。





崩したのは、レンさん。

壊したのは、今この瞬間の、レンさん。










なーにが“なこが決めること”だよ。

カッコつけかよ。








ふざけないでよ。

ばかにしないでよ。




なんだかとっても、惨めじゃんか。

なんだかとっても、可哀想な子みたいじゃんか。









レンさんが間違ったことを言ってないのは分かっている。


引き止められたい訳でもないし、むしろ大人な対応をしてくれているのも分かっている。








「…………レンさんは、残酷だ。」


「………………そうかもね。」





この期に及んだ振る舞いで、レンさんは自嘲気味に笑った。








それは、ちょっと。

それだけは、ないよ。レンさん。


彼女が他の男に誘われてる場面を、見ているだけで。興味さえ無さそうな素振りは、あんまりにも、だよ。



私だって、傷つくんだよ。

レンさん。





ちゃんと、分かってくれてますか?


レンさんは、私のこと。


ちゃんと、想ってくれてますか?








「…………もう、知らない。疲れた。」


「…………なこ、」


「レンさんのばか。」


「な、」


「ばかばかばかばかばか!ばーか!」





ソウさんの存在も忘れて、醜い心を隠さないままに叫ぶ。


乱れた息を整える余裕もなく、レンさんの前から走り去った。










それでも、冷血感なレンさんは。

決して私を、追ってきてはくれない。

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