第9話

「で、なんですか?」


「え?」


「先ほど、呼んだでしょう?甘えるように。珍しい。」


「…………なんでもなーい。」


「レンさん、のことですか?性懲りない方ですね。」


「だって…………っていうか!分かってるなら聞かないでよもう~……」





私の仕事事情はもちろん、プライベートまでもを把握し管理し、時には空気を読んで良き相談相手となってくれるにゃーあ。


確認しなくても、にゃーあの表情は緩んでいる。筈。








「しかし風変わりな方ですよね彼。面白い。」


「は?どこが?ただの性悪でしょ?けっ!」


「貴女はもう少し女優としての自覚を持ちなさい。どこの世界に“けっ!”を素で使う女優がいますか。昭和の親父ですら危ういですよ。」


「はいはい。悪ぅござんしたねそりゃあ。」





あーもう駄目だ。

頭入んない。

帰って集中の日だなこれは。





台詞の詰め込みを放棄し、助手席と運転席の間に顔を出してみた。


そこからちろり。と、伸ばして見るにゃーあは、いつもとなんら変わらない。








「けれど、気になるんですね。」


「………………」


「というより、確実に好きですよね?」


「…………言わないで。辛いから。」





目を伏せしゅん。と首を落とす。


と、さらけ出した後頭部に、にゃーあの華奢な手のひらが乗っかった。








「そこまで、なら。私は貴女が何をしても止めません。ただ、週刊誌、SNSなどにはお気を付けください。こんな御時世ですし。これから貴女とレンさんにどんな事が起ころうとも、その事だけは忘れずに。それは貴女の為でもあり、貴女の大切なレンさんの為でもありますから。」


「…………うん。分かってる。」


「……ついでに生意気を申し上げると、貴女のそういう素直で一本気なところは、最高の魅力だと私は思います。だから、めげるにはまだ早いんじゃないですか?」








しれっと手を離し、再び運転に集中するにゃーあを見上げる。


その頬は、赤く染まっているようにも見えなくはない。


いやむしろ、めっちゃ見える。

ピンク寄り。


ふふふ。

ふふふふふふふ。








「……にゃーあ。」


「はい」


「ありがと。大好き。」


「光栄です。それは。とっても。」





厳しくて硬くて、誰よりも私の理解者であるにゃーあが。

私は、大好きだ。

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