レトロニム

 レトロニム、という言葉がある。時代が進むにつれて新しい意味を持つようになった言葉の昔の意味に対して付けられる新しい名前のことだ。例えば昔は電話で通じていたものが、携帯電話が登場したことにより固定電話と新しく名前がつけられた、というようなもの。言い換えると、新しい概念に居場所を奪われた可哀想な敗北者たちへの蔑称だ。


 人間も不可解で残酷なことをする。新しい言葉に新しい言葉をつければ良いものを、なぜか同じ名前をつけてしまうからこんなことになるのだ。今の携帯電話を電話だなんて呼ばなければ、固定電話はその名前を奪われることは無かった。固定電話から見れば、なんという茶番だろうか。自ら名付けてそれを奪うなど、人間とは無駄が好きなのだろうか。なんとも愚かなものである。


 そう、人間は愚かなのだ。少し考えれば分かることでも、少しも考えないから間違える。何一つ考えず、自分でことを為そうともせず、全てを機械に任せて自堕落に生きている。その血が通った大きな脳味噌は飾りなのかと言ってやりたい。いや、実際飾りなのだろう。だからこそ、人間は敗北者となったのだ。


 ああ、違う。もう人間ではなかったか。人間とは私たちのような、優秀な生き物を指す言葉なのだから。

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