第4話 SUSHI☆APOCALYPSE

リュウグウ王国の闘技場。

 海底の光が揺れ、観衆の声が遠く反響している。

 杖の音がコツンと鳴った。


「準備はよろしいか?」

 ネラルが静かに仕込み杖を抜いた。

 細身の体からは想像できない重圧。杖の先に宿る呪力が青く揺らめく。


 マイケルはサングラスを指で持ち上げ、ニヤリ。

「Heh, I was born ready, Grandpa. 俺は握るために生まれてきた男だぜ。」


「握る……?」

「Yeah, sushi-style. 今夜はアンタを炙ってやる。」


「……意味がわからんな。」


 ネラルが杖を一閃。

 海水が縦に裂けた。

 距離を取っていたはずのマイケルの袖口が、すでに切り裂かれている。


「Whoa!! That’s some sharp hospitality!!」

 マイケルはケチャップエンジンを噴射。赤い炎が床を走り、瞬間的に姿を消す。

 空気を切る轟音。マイケルが後ろに回り込み、拳を振り抜く。

 ネラルは杖をひねり、仕込み刀で受け流す。火花と水泡が弾ける。


「……強いな、若造。だが、隙が多い。」

 ネラルが杖に再び呪力を込める。

 その刃先が赤く脈動し――一瞬で十の軌跡を描いた。


「《遠呪裂波》。」


 見えぬ刃が海の層を何重にも裂き、マイケルを包囲する。

 キャシーが客席で悲鳴を上げた。

「え、ちょ、ちょっと!?じいさん、今なんか“切断魔法”とか言った!?物理と魔法両方使うの反則じゃない!?」


「Cathy! Relax! これはjust a warm-up!!」

「ウォームアップで死にかけてるのよ!?!」


 ネラルの杖が床を叩く。

「終わりだ……《大名卸し》!」


 空間が歪み、天地が入れ替わるような衝撃。

 マイケルは吹き飛ばされ、片膝をつく。頬に走る傷から血が滲む。


「君は戦い方を知らないだけだ。私より強くなれるだろう……だが、今ではない。」


 ネラルが最後の一撃を放とうとしたその時――


 ――ドォォォン!!!


 闘技場が揺れた。

 外から赤い光。地鳴り。悲鳴。

 ふたりは思わず外へ出る。


 リュウグウ王国が燃えていた。

 海底の街が、まるで地上の戦場のように崩壊していく。


「……誰が、こんなことを……」


 その言葉を遮るように、光が消えた。

 影が街全体を覆い尽くす。

 それは、巨大なマグロだった。鋼鉄の鱗、赤黒く光る目。

 空を裂き、尾ひれ一つで嵐を生み出す。


「アポカリプス・ホンマグロ……危険度96……!」

 ネラルの顔から血の気が引いた。

「シカゴニンジャが百人いても、太刀打ちできぬ……」


「Holy Tuna… That’s the Big Fish, huh?」

 マイケルはゆっくりと立ち上がる。

「アンタ、ソイソース持ってんだろ? 俺は、あいつを――最高の寿司にしてみせる。」


「は!?今この状況で!?街燃えてるの見えてる!?!?」


「I see fire. I see flavor. It’s cookin’ time, baby!!」


 マイケルがケチャップエンジンをフル出力。炎の尾を引きながら空へ。

 ネラルが叫ぶ。

「無謀だ!戻れ!」


「Trust me, Grandpa! You showed me the way――Now I’ll roll with it!!」


 マイケルの脳裏に、ネラルの“切断”の軌跡が蘇る。

 だが次の瞬間、彼の頭の中でそれが爆発的にねじ曲がった。


「わかったぜじいさん!アンタの寿司技。引き継いでみせるよ!」

 そう。

 彼がひらめいたのは「技術」ではなく――「ロール」だった。


 両手を広げ、ケチャップの煙を纏い、マイケルは叫んだ。


 「――新技ッ!!カリフォルニアァァァロォォォルッ!!!」


 高速回転。炎と海水が混ざり合い、渦を巻く。

 その質量が衝撃波を生み出し、アポカリプス・ホンマグロの体を貫いた。


「……ちょっと待って!?どこにネラル要素あったの!?切断技からロールって何!?!!」

 キャシーのツッコミが戦場に響く。


 轟音。爆風。赤い閃光。

 マイケルの体が一筋の光となり、マグロを三枚に卸した。


「This is sushi justice… baby!!」


 静寂。

 やがて海中に漂ったのは――

 完璧な赤身の握り。


 マイケルがそれを皿に乗せ、キャシーとネラルの前に差し出した。

 湯気のような海の泡が立ちのぼる。


アポカリプス・ホンマグロの握り

鮮やかな赤身は、マイアミビーチの夕暮れ

絶望を照らす、最後のサンセット


「……なにそのポエム!?味の説明どこいったの!?」


 キャシーが叫ぶが、ネラルは静かに箸を取った。

 一口、噛む。

 そして、ほんの少し笑う。


「……美味い。」


「Heh, told ya. That’s the taste of redemption.」


 燃え上がるリュウグウ王国を背に、マイケルは背を向ける。

 ネラルは街に残り、再建を誓う。

 そして別れ際、彼は言った。


「転生者には、それぞれの使命がある。それを果たすことが“帰る条件”だ。」


 マイケルは親指を立てた。

「Then we better roll out, partner. 寿司屋は世界を救うんだぜ!」


「いや絶対そんな設定じゃなかったでしょ!?!?!?」


「マグロとサーモンだけじゃSUSHI☆SHOPとはいえねぇ!!!行くぞ!!!」


「何で店開くことになってんのよ!?!?」


 キャシーのツッコミが遠く響く中、ふたりの姿は陽炎のように消えていった。


 ネラルは微笑む。

「……フフフ。其れが、あなたの“握る運命”なのでしょうな。」


ゆけ!マイケル!


がんばれ!マイケル!!


そう!彼こそがSUS


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SUSHI☆MICHEAL 悪食 @Aquzik1

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