エピローグ1:静かな退職オジサンの決意
――やれやれ。
この数時間のフライト中に、オレはとんでもないものを聞かされてしまった。
五井物産の亜紀と玲奈。
最初はただのバリキャリ美女二人だと思った。
だが、こいつらの会話は常軌を逸していた。
“ランチ同行権”を週単位でシフト管理?
“ディナー権”をClass B株扱い?
挙げ句の果てに義妹との交流をガントチャートに落とし込む?
――正気かよ。恋バナがERPに変換される瞬間なんて初めて聞いたぞ。
そのうえDeepFuture AI日本法人代表の麻里とか日本GBCの由佳とか、出てくる肩書や名前が全部バケモン。
一ノ瀬直也の周囲は戦国七雄どころか、恋のミュンヘン会議状態だ。
頭がおかしすぎて、もう、笑うしかなかった。
……でもな。
オレは決めた。
たとえ勝ち目が薄くても、たとえ“負け確ポジ”とあの二人に断じられていても。
――オレは、その幼馴染ポジションの莉子さんとやらを応援する。
義妹や元カノやバリキャリたちに押し潰されそうになっても、幼馴染には幼馴染の意地があるはずだ。
たとえシードラウンドで退場とか言われても、ここから大逆転する物語だってある。
だって、オレ自身が“負け確”だから分かるんだ。
“負け確”って言われるほど、応援したくなるんだよ。
シャンパンに赤ワイン、白ワイン、最後はストロングまで飲み干したあの二人の笑い声が、まだ耳に残っている。
背筋が寒くなるほどの狂気。
でもその狂気に対抗する唯一の希望が――莉子なのかもしれない。
(……頼むぞ、莉子。アンタだけが、このバケモノ同盟に立ち向かえる唯一の光なんだ……)
プレエコの照明が落ち、機内に小さな寝息が広がる中。
オレは心の中で、ひっそりと、一ノ瀬直也の幼馴染に賭けることを誓った。……ま、オレが応援したところで何の力にもならねぇんだけどな。それでも、せめて心の中くらいは、莉子に賭けさせてくれ……
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