第14話 雨の中で
ポツポツポツ……
東郷らが学生食堂に居た所、徐々に雨が降ってくる。
それは夕方になると、大雨に変わっていた。
ザー!
激しく地面を打ち付ける
「うわ、大雨」
「傘、忘れたなぁ」
「売店にあるかな?」
傘の無い日本人は、それを求めて売店に移動していく。
一方、折り畳み傘を持っていた日本人は、
対照的に迎車以外の外国人は、フードを被ったり、ずぶ濡れでもそのまま帰っていっている。
国にもよる為、一概には言えないが、「雨の際、日本人は傘を差すが、外国人は傘を使わない」とされている。
この理由は諸説あるのだが、一般的には、
・体温の違い(例:日本人の平均平熱 36度後半~37度前半
欧米人の平均平熱 37〜38度)
・濡れても平気な服装を普段からしている為
・傘を持ち歩くこと自体が不便
等が語られている。
外国育ちの東郷は、傘の文化に詳しくない為、どちらかというと外国人側だ。
(売店、混んでいそうだなぁ)
売店付近の混雑模様を見て、東郷は考える。
行列の長さからして店内に入れるのは、早くても数十分は、かかるだろうか。
また、入店出来たとしても傘が無事に買えるかも分からない。
「……」
隣のクラリッサが袖を引っ張る。
帰ろう、と。
「分かったよ」
笑顔で応じ、東郷は歩き出す。
「……♪」
提案が受け入れられ、クラリッサは嬉しそうに微笑む。
手を伸ばすと、東郷は拒否することなく受け入れ、仲良く2人は手を繋ぐ。
対外的には義理の兄妹なので、周囲の人々には、微笑ましい。
「仲良いねぇ」
「本当に」
「私もあんなお兄さん、欲しいな」
人種が違う兄妹だが、白人の両親に引き取られた黒人やアジア人も居るように。
家族間で人種が異なるのは、別におかしくは無いことだ。
携帯電話の天気予報のアプリを確認すると、学校付近には線状降水帯が発生しているようだ。
「……クラリッサ?」
「……」
クラリッサは、頷く。
ずぶ濡れは、覚悟の上らしい。
(帰ったら風呂だな)
そう思いつつ、東郷は着用していたブレザーを脱ぐ。
「?」
それを不思議そうな表情のクラリッサの頭に被せる。
「濡れるから、それで避けるんだ」
「……?」
「俺は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「……」
それでもクラリッサは、
ブレザーを返す仕草を見せる。
「案ずるな」
微笑んで東郷は、その頭を撫でる。
「……」
クラリッサは、嬉しさと恥ずかしさで
そして表情を見られないように、ブレザーを頭から被るのであった。
大雨の中、2人は帰り道を歩く。
「……」
ブレザー越しにクラリッサは、心配そうに見上げる。
視線の先の東郷は、滝行中の如く、ずぶ濡れだ。
チラチラと視線を送るクラリッサに対し、東郷は相変わらず、穏やかな笑みで返す。
「大丈夫」
「……」
申し訳なさにクラリッサは、自己嫌悪に陥る。
東郷が聖人なほど、自分の不甲斐なさが表面化しているのだ。
「……」
何とか発声しようにも、やはり言葉が出てこない。
「……」
クラリッサは、
言わずもがな、1人の人間だ。
喜怒哀楽は当然ある。
ただ、人間関係が
クラリッサの様子を察知した東郷は、
「……」
静かに手を伸ばし、その手を握る。
「!」
思わず見上げると、東郷は優しく言う。
「二等兵、君は本当に優しいな」
「……」
「自分を責めるな。助かっているんだから」
「……?」
確実に迷惑をかけているのだが、意外な反応にクラリッサは、眉を
「お茶を
「!」
クラリッサは動揺する。
当たり前のことと思っていたが、それがまさかちゃんと評価されていたとは思いもしなかった。
「軍人として
「……」
軍人としての評価ではないが、それでも当たり前のことをここまで絶賛されるのは気分が良い。
「……」
発することが難しい代わりに、クラリッサは指文字で謝意を示す。
東郷の手の甲に、
『Jag kan inte tacka dig nog.』
と記す。
意味はスウェーデン語で「
東郷もスウェーデン語の指文字で返す。
『Det var så lite.』
こちらは、「
「……」
心が温かくなったクラリッサの脳裏に、あるリトアニア語が
『Myliu tik tave』―――「
リトアニアは伝統的な
2001年のリトアニア統計局の調査でも、人口の約8割がその信者であることが判っている。
旧教では純愛を重視している為、浮気は当然、厳禁だ。
リトアニアでの愛情表現は、その文化も関わっているのかもしれない。
クラリッサは、リトアニア人の同僚の会話を聴いていた為、この愛情表現を知っていた。
(……言ってみようかな?)
そんなことを想うも、すぐに諦める。
スウェーデン語にはスウェーデン語で、すぐに返した東郷だ。
リトアニア語にも精通している可能性がある。
流石にこれほど
クラリッサの中では、行動よりも言葉の方が恥ずかしいようだ。
「……」
言葉が難しい為、
すると、東郷は、
「……」
想いを
驚いて目を剥くと、東郷の優しい声音が頭上に響く。
「手、冷たいな。帰宅後、二等兵も入浴するように」
「……」
体温が
「……」
こくり、と頷いたクラリッサは、先ほどまで泣きそうだったのは、どこへやら。
心底、嬉しそうな表情で東郷の手を更に強く握り締めるのであった。
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